人生最後の仕事として、夫婦二人で困っている人の役に立てる遺品整理業を選択

シニア起業家インタビュー
三羽昭寿

よろずかたづけの「万承(ばんしょう)」
三羽昭寿氏

自動車販売や電機メーカーでの営業、アジア諸国での営業、仲介業などを経験。
50代に入り、夫婦ふたりで「人生の最後の仕事として、人の役に立つことを」と考え、2017年に55歳で遺品整理などを行う「よろずかたづけ万承(ばんしょう)」を設立。

会社勤めの頃から独立起業を意識。知人からのアドバイスで遺品整理士の仕事と出会う

Q:起業するまでの経緯をお聞かせください。

大学を卒業後、自動車販売会社や電機メーカーで働きました。自動車販売は個人、電機メーカーでは商社が顧客だったので、「BtoC」「BtoB」と、一般消費者、法人を対象にしたビジネスを経験しました。

会社勤めのときから「ゆくゆくは独立したい」と考えていたので、40代は一社に属さない独立した働き方を選び、営業・仲介業のフリーエージェントとしてシンガポールや香港、インドネシアなどに赴きました。

国内外を飛び回り忙しく過ごしながら50代を迎え、以前から頭の中にあった「自分で事業を始めたい」という思いとともに、「人生最後の仕事」を意識するようになりました。また、一般消費者、つまり個人のお客さまと向き合っていうことにビジネスとして魅力を感じていました。

お付き合いのある方に自分の今後について話していたところ、遺品整理士という仕事があると教えてもらったのが現職を選んだきっかけです。

少子高齢化が進む状況から遺品整理の仕事は需要があると判断

Q:現在の事業を選択した理由をお聞かせください。

少子高齢化が進んでいる日本ではお年寄りの一人暮らしが増え、亡くなった後の住まいの片付けなどが問題になっていました。また私が住む春日井市は、名古屋市のベッドタウンとして昭和の時代に大規模なニュータウンが開発されましたが、ここも高齢者が多くなっています。

社会全体、そして地域の状況から「遺品整理は需要がある」という見通しは立ちました。でも、私の気持ちを動かしたのは「困っている人の役に立てる」ということ、そして「夫婦二人でできる」ということでした。

今までは、夫と妻それぞれの役割を果たしてきましたが「これからは仕事も一緒にがんばっていこう」、そんな気持ちでした。縁あって夫婦になったのですから、「最後は二人で何かやってみるものいいな」と思ったのです。

地域の様子を調査し、日常の困り事に対応するサービスも実施

Q:遺品整理以外、地域の困り事に応える仕事も取り入れたのはなぜでしょう?

起業するにあたり、ニュータウンなど近隣地域の様子や老後について調べ、改めて実感したのは「高齢化によりさまざまな不便が生じる」ということです。

人は年をとると筋力や体力が落ちて、それまで何気なくやっていたことも負担になってきます。そのため、庭の草むしりや障子の張り替え、電球の交換、お風呂のカビ取りなど、日々のお困りごとに対応する必要があると思いました。街の便利屋さんのような仕事を請け負うことにしましたが、細やかに対応するためにニュータウンの方に限定しました。

遺品整理は故人のお住まいが対象で、遺されたご家族のお役に立つことが主な目的になります。
高齢層の日常をサポートしていくために生前整理技能士の資格も取り、生活の場を整えるお手伝いもすることにしました。

そして社名も、「万(よろず)の相談を承る」という意味を込め「万承(ばんしょう)」にしました。

遺品整理業専門サイトへの登録とチラシの配布で地域の人に自身の事業内容について発信

Q:起業にあたり取り組んだことは何ですか?

2017年に起業してすぐ、遺品整理業者を紹介する専門サイト「みんなの遺品整理(遺品整理士認定協会運営)」に登録申請を出しました。審査が通るまでのしばらくの間、「万承」のことを地域のみなさんに知ってもらうためにチラシを作って近所に配布したり、お付き合いのある方にごあいさつに伺ったり、高齢者支援を行う地域包括支援センターを訪問するなど、思いつくことは何でもやりました。

チラシは遺品整理・生前整理に関するもの、よろず相談にお応えする便利屋さんのサービスを打ち出すものと、2タイプ用意しました。

ターゲットに合わせてチラシを2パターン作成、拡散力の高いホームページは事業が安定してから開設

Q:チラシやホームページといった営業ツールではどのような工夫をしましたか?

カタログやチラシといった営業ツールは「誰に何を伝えるのか」を明確にすることが大切で、欲張ってたくさん詰め込むと読む人に伝わりにくくなるため2パターン作成しました。

遺品整理・生前整理は高齢の親御さんを持つ世代、よろず相談はご高齢の方に向けて…といったイメージですね。

ホームページを開設したのは起業から2年たった2019年です。

期間をおいたのは、まずは近隣の方を対象に丁寧な仕事をしたいと考えていたから。また作業者は私と妻の二人であり、案件によっては数日かかる場合もあるため月に5件を指標にしたこと。依頼主の多くはネット世代ではないこと。これらの理由から、「当面は、チラシのポスティングによる営業活動が適している」と判断しました。

私の事業はオフィスを構えたり、専門機器を導入したりする必要がないので、起業に際し多くのお金を費やしたわけではありません。

でも、起業後は十分な収入が得られる保証はありません。貯蓄を取り崩す可能性もあるので、初期投資は最小限に抑えることにしました。

準備段階で予測できないことは、起業後に事業の流れに合わせて柔軟に対応

Q:事業を運営してから取り組んだことはありますか?

事業というのは、実務が始まることでさらなるニーズを発見できるところが興味深いですね。会社勤めでも経験できることではありますが、決定権は自分にあるので、すぐにサービスに取り込むことができます。

空き家の整理では、残された荷物をひとまとめに処分してしまうところもあります。しかし、多くの遺品整理事業者のサイトに書かれているように、ご遺族にとっては故人をしのぶ思い出の品であり、ゴミではありません。

家の主(あるじ)がいなくなったとはいえ、そこで生活を営んでいた方の息づかいすら感じます。おのずと厳かな気持ちになりますので、ぞんざいには扱えません。

実際に遺品整理の仕事をするようになり、私たちが相手にするのはモノではなく「人なのだ」と、つくづく思います。

使えるもの、価値があるものは、お客さまの同意のもと再利用できるように、遺品査定士の資格や古物商の許可も取りました。

事業を運営する中で「何が足りないのか」「何を学ぶべきか」が見えてきます。起業前から予測を立て必要なものをそろえておくことは大事ですが、「あれもこれも…」となると、なかなかスタートを切ることができません。だから、動き出してから装備を調えていくのも悪くないと思います。やってみないと、わからないこともあります。

仕事の質を維持するためにも夫婦二人が基本、自分たちに合った事業規模を大切にしたい

Q:従業員を増やすなど、事業展開について考えていることはありますか?

遺品整理やよろず相談の依頼は、従業員を増やせばこなせる数も多くなります。でも、採用の予定はありません。

従業員を雇うと、私たちと同じレベルで対応できるとは限りません。仕事の質が落ちて、お客さまに満足していただけない可能性があります。また、従業員の給料を捻出するために案件獲得に躍起になるなど、仕事が雑になる恐れもあります。

私たち夫婦は「人の役に立ちたい」という強い意志で「万承」を始めたので、無理な営業で数を集めるというのは本意ではありません。

理想論のように聞こえるかもしれませんが、どのような組織にも理念があって、それが揺らぐといい仕事ができなくなります。

若い頃の起業であれば、人材採用や育成に力を入れて事業を拡大していくのもいいでしょう。雇用や経済活動の活性化は社会的に大きな意義があります。また、結婚して家族を養うなどしっかり稼ぎたい世代です。

私は子育ても一段落し生活も落ち着いたので、地域の人に寄り添い、困りごとにお応えする道を選びました。現在のペースと規模感が自分の事業のあるべき姿であり、私にできる社会貢献の形だと思っています。

事業を広げるのではなく、各分野の専門家との連携で顧客サポートを充実させる

Q:よろず相談の方もニーズが多いそうですが、どのような取り組みを考えていますか?

お客さまと話す中で、遺品整理した後「その家をどうするのか」といった空き家問題が見えてきました。

屋根や外壁を補修したり、室内リフォームをして賃貸に出したり、売却したり。老朽化が激しい建物は、解体して更地にした方が売却がスムーズに進む場合もあります。

中には「業者を探す余裕がない」という方もいらっしゃるので、情報提供ができるように知人に問い合わせたり人脈作りをしたり、さまざまな分野にアンテナを張っています。

私自身の事業を広げなくても、横のつながりを広げることでお客さまのお役に立つことができます。

家財道具などがなくなった部屋を見て、寂しさもありながら「きれいに片付いた。故人をちゃんと見送ることができた」と安堵されます。ほっとすると、空き家の維持・管理、処分といった次の問題が頭に浮かんでくるのでご相談されることが多いんです。

だから、次の専門家につなげることも遺品整理の仕事の一環として取り組んでいます。

手間や労力を惜しまず顧客に寄り添うサービスで信用を構築

Q:事業運営において大切にしていることはなんですか?

遺品整理業は、個人から大手まで事業者の数は1万社を超えると言われています。私の住む愛知県春日井市でも複数の業者がいます。

みなさんが引っ越しをするとき、いくつかの業者から見積もりを取るように、遺品整理でも何社かを比較検討する方がほとんどです。

個人事業主がお客さまから選んでもらうために、手間や労力を惜しんではいけないと思っています。「手をかけすぎると工数だけ増えて利益にならない」といった意見もあるでしょう。ただ遺品のように人の生きざまを表し、心の機微に触れる物を扱う場合、効率性を追いかけても良い結果を生みません。

私のように自分の経歴とは違う事業に乗り出す場合、事前リサーチでは見えてこない現実が見えてくることがあります。

顧客が求めているものは何か、それに対してどのようなサービスや商品を打ちだすのか。また、どんな技術を磨いていくのか。実際の業務を通じて、適宜見極めながら改善していくことでより良い成果につながるのではないでしょうか。

全国各地にネットワークを広げ、志の高い同業者と顧客満足を目指す

Q:今後の展望についてお聞かせください。

2019年に開設したホームページでは、遺品整理士は単なる撤去・回収業者ではないということ、遺品整理でご提案するサービスの内容などをお伝えしてく場として活用しています。

最近では遠方から、「春日井市にある実家の片付けをしてほしい」といった依頼をいただくこともあります。

今後は、近隣に住む方から他府県のお住まいの遺品整理をお願いされたとき、質の高い仕事をするプロを紹介する仕組みを構築したい。そんな事業展開は考えています。

私と同じ志をもつ遺品整理業士とネットワークができれば、自分が現地に行かなくてもお客さまのサポートができます。

各地にいる同志とつながり、遺品整理という仕事の認知度を上げ、質の向上に努めるためにもホームページで発信していきたいと思っています。


【転載元】プロ50+
もうシニアと呼ばせない プロ50+
https://pro50plus.mbp-japan.com/