創業助成事業 利用者インタビュー
kanata株式会社 滝内冬夫さま
kanata株式会社
カルテ業務を75%削減!
声をカルテ化するAIツール「kanaVo」で
「患者と医師が向き合える医療」を実現する。
COMPANY INFORMATION
kanata株式会社
東京都中央区築地3-7-1 TSUKIJI GRANDE2F
構文解析の研究開発、構文解析に関連するソリューション、声をカルテ化するAIツールkanaVoの開発・運用・販売、医療秘書機能付き電子カルテVoice-Karteの開発・運用・販売、その他病院情報システムに関連するコンサルティングを行う。2018年11月設立。
代表取締役 滝内 冬夫
慶應義塾大学経済学部卒業。シンクタンク勤務を経て、2004年より医療法人における電子カルテの制作に参加。2008年、メディカリューション株式会社に取締役として参画。2017年、音声認識及び自然言語処理に関する研究に着手。2018年 kanata株式会社を設立。同社代表取締役に就任。
-起業のきっかけ-
「患者と医師が向き合った診察の実現」というテーマに出会い、起業を決意
創業を決断したきっかけは、入院中の息子に付き添う中で気付いた病院内の課題を解決したいという想いからでした。白血病を発症した息子の入院中、私と妻は交代で付き添い、ほとんど病院に暮らしているような毎日。その中で、院内で働く医療者が睡眠時間を削り、時には家にも帰れないほどのハードワークをされている実態が見えてきました。
「わたしたち医療者は、患者さんの病気や怪我を治したくて、患者さんを見守りたくてこの仕事に就いた。でも、カルテや引き継ぎ資料をまとめることに時間を取られてつらい」というお話も多くの医療者から伺い、医療者の事務作業をどうにか軽減できないかという想いが芽生えました。
また、1日5 0人から100人の患者さんを診る医療者はあまりに忙しく、患者さんの顔色をじっくり見る余裕がないこともあります。「もしあのとき、じっくり診察してくれたら……」そんな後悔を患者さん本人やご家族に残さず、お互いが納得できる医療を実現したいという想いも、創業を後押ししたと思います。
息子は天国に旅立ってしまいましたが、余命わずかと言われていた彼が1年3か月生き抜いてくれたからこそ気付けた大きな社会課題。息子のために尽力してくださった医療者への感謝を胸に、医療者の働き方改革を支え、「患者と医師が向き合える診察」を実現するため創業を決意しました。
-事業化に向けて-
医師の事務作業を一日2時間削減できる「kanaVo」で、医療者も患者も笑顔に
kanaVoの音声認識画面。患者と医師の会話が分類して表示され、自動的にカルテ形式に要約される。
現在は、診察中の会話をAI(音声認識と自然言語処理)によりカルテ形式にサマライズするクラウドサービス「kanaVo(カナボー)」を提供しています。診察室で医師の診断を聴き取り、カルテへの代行入力、処方箋の作成を行う「医療秘書」的なサービスです。
kanaVoを使うと、診察中の音声が自動で記録・要約され、要約結果を確認・編集するだけでカルテが完成します。結果、医師の業務時間を1日あたり約2時間削減できました。kanaVo活用による最大のメリットは、医療者のワークライフバランスが豊かになること。さらに、時間に余裕が生まれることで、医療者が理想とする医療に専念できますし、患者さんとも一層向き合った診察ができて、患者さんの安心感も高まります。
また、kanaVoには音声データが残っているので、当日話した内容に基づいて患者さんの問い合わせに応えられたり、診察していない医師でもデータを見れば適切な応対ができます。医師と患者さん、医師同士の情報共有に使っていただけるのは想定外の効果でした。
ただ、もともと創業を考えていなかったため、事業計画の書き方がわからない、資金調達が思うように進まない、優秀なエンジニアを集められない……と、創業前後は課題が山積。仲間とともに一つずつ壁を乗り越えましたが、最も大きな壁はコロナ禍でした。創業時からkanaVoの機能を搭載した「電子カルテ」をクリニックに販売していたのですが、衛生面から病院に出入りすることが難しくなり、営業機会を失ってしまいました。
この危機を乗り越えられたきっかけは、ある女医さんからの「御社の電子カルテから、kanaVo機能だけ切り出せないか」というお電話でした。普段使い慣れた電子カルテに、診察中の音声を記録・要約できるkanaVo機能を追加できたら、とても便利になるというご意見をいただきました。
確かに、全国の医療機関の半数はすでに電子カルテを使われていて、カルテ自体の切り替えはハードルが高いのかもしれない。その電話が大きなヒントとなり、電子カルテの販売からkanaVo事業にピボットすることで、ビジネスチャンスが大きく広がりました。
TOKYO創業ステーションとのご縁は、2022年に「創業助成事業」に申請し、助成事業に採択されたことから始まり、創業ワンポイントセミナーにも登壇させていただいています。助成金はもちろんありがたかったですが、それ以上に有意義だったのは、申請前に事業計画を見直し、自分たちの存在意義と未来についてじっくり考える機会をいただけたことでした。「自分たちは誰を幸せにしたくて、何に注力すべきなのか」を見つめ直せた時間は、事業を続ける上で大切だったと思います。
-これからのビジョンは?-
kanaVoの普及と技術革新を続け、患者さんと医療者の情報共有をうながしたい
今後、取り組んでいきたいことのひとつは、KanaVoの認知度アップ。ユーザーである医療者が登壇されるウェビナーや学会でKanaVoをご紹介し、カルテを手書きすることに負担を感じ始めた医療者、ITの導入に慎重だった医療者の負担を軽減できる「やさしいAIツール」を広げていきたいです。2つめは、KanaVoに蓄積されたデータから「こういった症状なら、こういう問診をすればいいのでは」といった情報を提供し、医療者の初診をサポートすること。特に、医師不足の地方で尽力される医療者は、専門外の患者さんを診る必要に迫られています。ぜひ、その負担を減らしたい。3つめは、医療者から患者さんへのアドバイスを何らかの形で情報共有し、健康的な毎日を支えること。技術的な課題をクリアし、実現したいと思っています。
創業を目指す方へ~応援メッセージ~
「これは、絶対に自分が解決したい」と本気で思える社会課題に出会ってしまったら、さらに言うと、課題が解決されたことで笑顔になっている人を想像できてしまったなら、もう創業しかないと思います。創業したからこそ得られた経験と責任感が、私を成長させてくれました。自分の使命や強い想いを基に行動することで、想いが届いて思わぬ展開につながったり、素晴らしい仲間に出会えたりと、充実した毎日を送っています。