TOKYO起業塾で始める起業の一歩
創業者の一歩を応援する「TOKYO起業塾(以下 起業塾)」。創業準備段階に合わせた「入門コース」と「実践コース」があり、起業に向けた実用的なサポートを行っています。
今回は、日本のミドル世代に向け、永く愛用いただけるニットジャケットを届けるために起業された市勢 善浩さんと、市勢さんが参加した回で講師を務めた伊豫田 竜二さんにインタビュー。
起業塾を活用された市勢さんの起業ストーリーを伺い、起業塾での学びや、気づきについて伺っていきます。
フェイバニッツ合同会社 代表
市勢 善浩さん
アパレル企業経験35年、マーチャンダイジング経験30年、ニット専門学校就学1年のノウハウ・アイデアを生かし、アパレルビジネスの新モデルを実現すべく創業を決意。ミドル世代に向け、すっきりとした見映えと着心地の良さを両立したメンズニットジャケットをメインに提案している。日本製のモノづくりにこだわり、横編みニット製品の新商品を日本、世界に送り出すことを目標に活動中。
伊豫田中小企業診断士事務所 代表
(令和2年度TOKYO起業塾 実践コース第7回講師)
伊豫田 竜二さん
付加価値の高いニッチ商品の事業化・収益化とプレゼン力を活かした販路開拓が得意。顧問として支援した町工場の新規事業は、クールジャパン戦略の成果として、有名アートディレクターの関与した企業やアパレル大手とともに、内閣府のウェブサイトで紹介された。ほか、商品提案した小売店の旅番組放映や、首都圏の観光・土産品開発支援での品評会受賞、メディア掲載など豊富な成功例や実践術を持ち、起業者に分かり易く伝えている。
――まず、市勢さんが立ち上げられた事業の概要を教えてください。
市勢:2021年3月にフェイバニッツ合同会社を立ち上げ、ミドル世代に向けたニットジャケット「Favorknits(フェイバニッツ)」をお客様に直接お届けする事業に取り組んでいます。事業を一言で表現すると、「ミドル世代の究極ニットジャケットD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)」です。
伊豫田:起業塾での学びが活かされていますね(笑)。私の実践コースでは、あるポータルサイトのトピックスの見出しに合わせ、事業のキャッチコピーをつくる課題があったんです。
市勢:少ない文字数で事業を表現するのは難しかったですが、本質について考える機会になりましたね。「フェイバニッツ」が想定するお客様は、私と同じミドル世代。子育てなどもひと段落して、少しずつ自分のやりたかったことにお金と時間を使えるようになってきた方に着心地から価格、環境への配慮まで考え抜かれたニットジャケットをお届けし、毎日を心地よく、カッコよく過ごしていただきたいと思っています。
――起業のきっかけについて、差し支えなければご教示ください。
市勢:自慢できる話ではありませんが、外資系アパレル企業で退職勧告を受けたことが始まりです。商品開発から販売戦略まで行うマーチャンダイザーとして、ブランドの全責任を負う立場だったので、業績次第で立場が危うくなることは常に覚悟していました。そうはいっても、定年間近というタイミングだったこともあり、実際は戸惑いましたね。コロナ禍でアパレル企業への再就職も難しい状況でした。
学生時代にものづくりを司るマーチャンダイザーに憧れてアパレル業界に入り、自分のやりたかったことを仕事にできてきました。好きな仕事だったからこそ、次も同じ業界で、自分がやり残したことに取り組みたいと思いました。
――改めてチャレンジしたいと思われたのはどんなことですか?
市勢:お客様を裏切らないビジネスモデルをつくりたい。そう決意して、まず、セールをしないことを決めました。
在庫を減らしたい会社の都合でセールをすると、セール前に買ってくださった方が損をする。正規価格は、セールでの利益減を織り込んで付けられているので、二重で損なのです。また、なぜ在庫が出るかというと、前年実績をもとに生産されるからです。店舗は、セール分も見込んで仕入れをするので、結果、毎年セールしなければ在庫は減らない……。その循環に疑問を持っていたんです。
セールをしないと決めると、自分なりのビジネスモデルが決まってきました。いつも同じ価格なら、在庫を大量に抱えないように少量つくればいい。よい素材を使って原価率が50%に上がっても、100%売り切れば原価率25%で半額セールをしていた頃と同じ利益が確保できる。お客様に心から満足していただくためのビジネスモデルが定まってきました。
――では、ジャケットにニット素材を選ばれた理由はどんなところにありますか?
市勢:ニットは着心地がよく、カーディガンやセーターと同じ編地なのでかしこまりすぎず、でも形状がジャケットなのでくだけすぎない。今の時代に一番使えるスマートカジュアルにぴったりの素材だと感じました。
また、ニットは一人でマネジメントできるんです。生地から洋服を仕立てるには、服飾デザイナーさんやパタンナーさんなど、多様な職種が関わります。ニットの場合は、編地の素材選びからデザイン、製造工場さんとのやり取りも一人でできる。起業塾でも「リーンスタートアップ」の重要性を教わり、選択に自信が持てました。
伊豫田:そうですね。起業は、自己実現のひとつだとも思うんです。講師としては、受講生みなさんが強い想いを遂げ、その事業で食べていけるようになってほしい。だからこそ、最初から大きな投資をして事業をすぐに諦めてほしくありません。「まずは小さく始める」は、多くの方にお勧めしている起業方法です。
市勢:ただ、編み機を動かす方法やニットのデザインについては素人同然。なんとか、基本を学びたいと「東京ニットファッションアカデミー」に飛び込み、2年間のカリキュラムを1年で終えることはできないかと学校長に交渉しました。集中して学ぶ中で、ジャケットのデザインをミドル世代男性100人以上の体型分析をもとに固めていきました。自分の体型にピッタリ合ったものを着るだけで、誰もがカッコよく見える。フィット感にはこだわりを持っています。
――起業にあたって不安なお気持ちはありませんでしたか?
市勢:もちろんありました。数十年間毎月お給料が入る生活を送ってきましたし、1年間は学生生活で学費もかかります。ただ、妻が「やってみたいことがあったなら、チャレンジしてみたら」と背中を押してくれたんです。その励ましは力になりました。
――起業塾はどのようにして見つけられましたか?
市勢:起業に関する情報を集めなければとネット検索をしている中で見つけました。立川にある「TOKYO創業ステーションTAMA」で、コンシェルジュの方とお話しし、起業塾に申し込みました。実は、創業までに入門コースと実践コース、合わせて3回受講しているんです(笑)。
伊豫田:え、私の講義までに2回受けていたんですか! どうりでビジネスプランもしっかりまとまっていると思った(笑)。
市勢:事業アイデアを具体化するためのポイントを入門コースで学び、実践コースでは起業に必要なポイントを学ばせていただきました。伊豫田先生の講義は実践的で、良い意味で教科書的じゃないというか……(笑)。
伊豫田:(笑)。理念やビジョンも経営にはもちろん大切ですが、弱者ならではの立ち回り方がありますからね。「一人や、小さなチームでも勝てる戦略」を具体的にお伝えするようにしていました。
――実践コースでは、どのようなことを学べますか?
伊豫田:3日間で、起業に必要な知識やノウハウを体系的に身につけていただけます。具体的には、顧客目線のマーケティングの基礎や、起業に必要な財務知識や売上予測の立て方、市場規模の把握といったお金について学び、ご自身に合ったビジネスモデルの確立を目指せます。起業を具体的に考えている方ばかりなので学ぶ意欲も強く、毎回私も刺激を受けます。
市勢:講義だけではなく、少人数でのグループワークも行われます。互いの発表内容を聴いて質問しあうことで、客観的に自分の意見を見つめ直すきっかけになりますし、自分とは違う視点を得ることができ、ビジネスモデルのブラッシュアップができます。
伊豫田:「起業」という目標は同じでも、性格も、置かれている環境も、事業を起こそうとする業種も異なるので、ワークでは、個々に合わせたアドバイスを心がけています。
自分自身、起業塾でさまざまなビジネスモデルに触れ、常に新鮮な知見が蓄えられていきます。その知見を自分なりに磨いてノウハウに変え、受講生の起業をサポートしたいですね。
市勢:伊豫田先生の講義資料は、デスクの引き出しに入れて時々見返しています。行動して初めてわかることがあり、事業計画書の作成は終わりがありません。私の場合、ビジネスのターゲットも少し変化し、広告費のかけ方も変わりました。計画の根幹は変わらなくとも、枝葉の部分は柔軟に変えてこの先も生き残っていきたいです。
伊豫田:市勢さんは、起業塾をすでに2回受講されていたこともあり(笑)、私の投げかけに懸命に答えてくれました。商品へのこだわりは全くぶれませんでしたし、起業後もお客様がしっかりついているそうなので、安心しています。
――受講生とは、受講中につながりができたりするのでしょうか。
市勢:受講中だけでなく、今でも何名かと交流があります。ある受講生の方には、フェイバニッツのホームページをつくってもらったり、SNSの相談に乗ってもらったりしています。また、メンズスタイリストを目指す受講生の方とコラボして、フェイバニッツの試着会に来てくださったお客様にコーディネートをアドバイスしてもらいました。このコラボは、伊豫田先生のアイデアをお借りして実現したものです。
[経費節約の為、市勢さんご自身がモデルとなって撮影。カメラマンは起業塾で知り合い、今も交流がある]
伊豫田:いきなり著名なスタイリストさんを呼んだりしたら、過剰投資でビジネスが続けられなくなる可能性が高い。「駆け出し同士でやってみたら?」と市勢さんに話したら、すぐ行動に移してくれました。ビジネスマンに馴染み深い、ルノアールの会議室でね(笑)。
市勢:自分では、ルノアールの会議室というアイデアも浮かばなかったですね。一人で事業に向き合っていると、悶々と考え込んでしまいがち。そんなとき、講師の方や受講生と話すと、行動のヒントをもらえたりするんですよね。先生、実は、今日も相談したいことがあるんです。
伊豫田:どんなことですか?
市勢:ニットジャケットの通販を「返品自由」にしようかと考えているんです。返品自由が当たり前になっている今、返品しづらいために注文をためらっているお客様がいるかもしれないと感じていて。
伊豫田:そうですね……否定はしませんが、市勢さんがAmazonと同じ土俵で戦う必要はないんじゃないかと思います。フェイバニッツは、「返品自由」が魅力なんですか? そうじゃないとしたら、「絶対にほしい」と思われるように、ジャケットの魅力を高めることが先じゃないかな。
市勢:なるほど……伊豫田先生の言葉は、起業の原点を思い出させてくれます。ありがとうございます。
伊豫田:受講生のみなさんは、常に事業のことを考え、手を打って前に進んでいるからこそ、フェーズごとに不安がもたげてきたり、悩んだりします。なかなか売上が立たなければ焦りますし、あらぬ方向に突っ走ることあります。
潜在ニーズを掘り起こすタイプの事業は、軌道に乗るまでに時間がかかります。時にはプランを見直すスパンをもう少し長くして、気持ちに余裕を持って行動することも大切です。
起業塾の受講後も、TOKYO創業ステーションでプランコンサルタントの無料アドバイスを受けられますし、プランコンサルタントへの相談は起業後5年間OKです。
起業に至った信念や、本当にやりたかったことからぶれないことが、幸せな起業につながると思っています。悩んだときは、今みたいに気軽に相談してください。
――市勢さんが起業されて、記憶に残っている瞬間はありますか?
市勢:インスタグラムで試着会の宣伝をしたものの、フェイバニッツというブランドを知っているのは自分とごく身近な人だけ。友人以外誰も来なくても、落ち込まないようにと心に決めて試着会場をオープンしたところ、10分しないうちにお客様が来てくださったことは忘れられません。見つけてくださる方がいる、興味を持ってわざわざ足を運んでくれる方がいる。それは本当にうれしいことでしたし、事業を続ける力になりました。
試着会でお客様とお話しすると、ミドル世代の洋服は「カッコよさ」と「心地よさ」の両方が必要だという仮説は正しかったと感じます。ジャストサイズなのに着心地がいいニットジャケットを、もっとアピールしていきたいです。
――起業されて、よかったと感じることはありますか?
市勢:これまで出会えなかった方々とご縁ができることで、世界が広がる感覚が新鮮で、起業してよかったです。今は、荒川区のアパレル系起業家が集まるインキュベーション施設「イデタチ東京」が事業の拠点で、ジャケットの副資材はなるべく荒川区内で調達しています。区内でのつながりも増えてきました。施設内では、入居者同士でも交流を深めています。業界の仲間であり、若者ばかりなので「負けてられないな」と刺激になりますね。
――では、最後に今後取り組みたいことについて教えてください。
市勢:フェイバニッツは店舗を持たず、ネット上でMade in Japanのニットジャケットを販売しています。先日から、クラウドファンディング「Makuake」で販売を開始したこともあり、ゆくゆくはアメリカのクラウドファンディングを活用し、海外に販売してみたいです。
前職ではアメリカ出張の機会も多く、日本への関心の高さを感じました。日本の職人技が生み出す高品質なジャケットのカッコよさ、着心地を、海外の方にも体感していただきたいです。
伊豫田:楽しみですね。「Makuake」でのプロジェクトも、目標金額の1398%でサクセス※していますし、この先のチャレンジにも期待しています(※2021年10月末現在)。
市勢さんのように、起業してみたい! 起業ってどんなものだろうと知りたくなったら、ぜひ一度、起業塾に参加していただきたいです。起業後の学び直しで受講される方もいらっしゃいますし、まず参加してみることで、この先が変わっていくと思います。
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