「TOKYO創業ステーションTAMA」の支援メニュー活用。SMILE CURVE野口さんに聞くマッチング支援で理想の検査機器の開発を実現
「TOKYO創業ステーションTAMA」の支援メニュー活用。
SMILE CURVE野口さんに聞く
マッチング支援で
理想の検査機器の開発を実現
「多摩ものづくりスタートアップ
起業家育成事業」
思春期側弯症の早期発見につながる検査システムの開発・販売を手掛けるSMILE CURVE 代表取締役の野口昌克さん。
*検査カメラと撮影時の姿勢を固定する「ポジショナー」とともに
「TOKYO創業ステーションTAMA」は、東京都と東京都中小企業振興公社が運営する起業・創業支援施設の一つで、様々な支援事業を行っている。「多摩ものづくりスタートアップ起業家育成事業」はその一つだ。医療機器スタートアップSMILE CURVE(スマイルカーブ、東京・板橋)は、同事業を活用し側弯(そくわん)症の早期発見につながる検査システムを開発した。同社の代表取締役 野口昌克さんへのインタビューなどを通じ、同事業の概要や魅力などを紹介する。
SMILE CURVE代表取締役 野口昌克さんに聞いた
思春期側弯症の
早期発見を目指し起業
――SMILE CURVE(スマイルカーブ)を起業した動機と事業概要を教えてください。
思春期側弯症の早期発見を目指し起業しました。側弯症は背骨が左右に湾曲した状態です。学校のクラスに1~2人くらい(人口の2~5%)。主に10~16歳の子どもに発症しますが、早期に発見できれば、装具治療などで矯正でき、重症化を抑制できる可能性があります。しかし、軽症のときは無痛で自覚症状がなく発見が遅れがちです。重症化すると、大がかりな手術しか選択肢がなくなってしまうことが多いのが現状です。
私たちの主な事業は、側弯症の早期発見につながる検査システムの開発・販売です。かつて日本には、機器を使って検診する「モアレ法」と呼ぶ手法がありました。しかし、機器が大きく、読影も難しかったこともあり技術が途絶えてしまいました。「機器を使った検診」の継続を願う検診現場および医師の先生方の強い思いを受け、チームを組んで研究・開発。最新のデジタル技術により「モアレ法」を再構築、小型・軽量で簡便な手法に仕上げ、2026年3月、医療機器の届け出を完了しました。
左:側弯症に伴う体表面のゆがみを「モアレ法」で検査
右:体表面データからコブ角などをAIにより計測するソフトウエアを開発中
側弯症に伴う体表面のゆがみを「モアレ法」で検査
体表面データからコブ角などをAIにより計測するソフトウエアを開発中
アイデアあっても
資金無く専門家おらず
――起業にあたり、苦労した点は何ですか。「多摩ものづくりスタートアップ起業家育成事業」に申請したきっかけは?
苦労したのは資金と人です。特に医療機器の開発・製造、側弯症に関する検診・予防領域の事業は、時間や費用を要するため苦労しました。その中で出合ったのが、「多摩ものづくりスタートアップ起業家育成事業」です。
SMILE CURVE 代表取締役 野口昌克さん
京都大学大学院博士(生命科学)。大企業コンサルティング、産学連携、技術系スタートアップの事業支援、医薬品・医療機器のマーケティングなどに携わる。2023年SMILE CURVEを創業
もともと東京都中小企業振興公社(公社)の「東京都医工連携HUB」に登録しており、その担当者から紹介され、2期で合計1300万円の支援金をいただきました。また、資金がない中では人材は限定されてしまいます。事業開発とIT、現場を知るメンバーはいても、ものづくりのノウハウはない。アイデアはあってもそれを実現する資金もなく専門家もいませんでした。
専門家の伴走など
手厚いサポート
――支援金のほかにどのような支援を受けましたか。特に頼りになったことを教えてください。
公社のサポートは本当に手厚いです。大企業で設計から製造まで経験してきた専門家がプロジェクトマネジャーとして伴走してくださいました。スマイルカーブが開発する側弯症の検査では、側弯症に伴う背中の凹凸を検査専用カメラで撮影します。子どもが撮影の際に、安心かつ安全に姿勢を維持するための器具「ポジショナー」の開発を目指しました。しかし「ポジショナー」の開発・製造をどこに頼めばいいのかも分かりません。相談したところ、マッチング支援企業として昇栄産業さんを紹介いただきました。
メンタリング制度では、機器開発・製造に関する有識者が、マッチング企業との会議や交渉に参加してくださいました。中立的な第三者が入ることで議論が前に進みました。公社が持つ「オープンイノベーションフィールド多摩(OiF)」での構造解析や評価施設を紹介いただけたことも大きかったです。完成した「ポジショナー」は、現場で安全・安心に使ってもらえるよう5万回の耐荷重試験を行いました。公社の皆さんには、申請書や報告書の作成でも丁寧にサポートしていただきました。
側弯症の早期発見を
世界で実現
――昇栄産業さんとの「ポジショナー」開発は順調に進みましたか。
試行錯誤の連続でしたが、非常に真摯に取り組んでいただきました。私たちが最初に作ったプロトタイプは20kgほど。重すぎるので「10kgにしてほしい」と、いま思えば無茶なお願いをしましたが、20パターン以上のミニチュア模型を作ってきてくれたんです。議論を重ね、約1年半かけて完成させました。「自分ごと」として取り組んでくれた昇栄産業さんでなければ、この製品は生まれなかったと思います。
――スマイルカーブが目指すことと今後の展開を踏まえ、日経電子版読者へメッセージをお願いします。
背骨は体を支える柱です。重症化する前に少しでも早期に発見して、子どもや家族の笑顔(スマイル)を守りたい。そんな思いを込めて社名を「SMILE CURVE(スマイルカーブ)」にしました。
専門家や外部のエキスパートの助言、パートナー企業のマッチング支援など手厚いサポートを受け、検査システムを完成
私たちの目標は、思春期側弯症の早期発見を、日本だけでなく世界で実現することです。まずは我々が開発した検査システムを、学校や医療機関に導入し、小型・軽量で簡便かつ被ばくのない検査の普及を進め、将来的にはAI(人工知能)で進行を予測したり、3Dスキャナーで体に負担の少ない装具を作ったりと、検査から治療までをつなぐシステムを視野に入れています。海外展開も進めており、ドイツへの展開では、公社の別のプログラム「地域間経済交流事業」で支援していただきました。
日本では、学校検診の中で「脊柱・胸郭」の検査が法律で定められ、毎年学校で実施されています。しかし機器による検査が実施されているのは、全国で10%ほどの自治体に限られています。思春期における側弯症の早期発見はとても重要です。側弯症の早期発見、治療を可能にする検査システムを構築し、日本全国、そして世界へ届けていきたいと考えています。ちょうど6月は「国際脊柱側弯症啓発月間」です。まずは、私たちの身体を支える背骨の大切さ、そして側弯症という病気について知っていただくことが第一歩です。側弯症への理解と関心が少しでも広がればと願っています。子どもたちの側弯症が早期に発見され、適切な治療につながる社会の実現に向けて、ぜひ応援いただければ幸いです。
マッチング支援企業 昇栄産業代表取締役 岩﨑聡さんのコメント
マッチング支援企業
昇栄産業代表取締役 岩﨑聡さんのコメント
昇栄産業は、モノづくり商社として、組み立て完成品まで一括して請け負うことを得意としています。スマイルカーブさんへのマッチング支援は、「立って休憩する」をコンセプトにした自社商品を手掛けていることがきっかけで、公社からお声がけいただきました。
側弯症自体は認識していましたが、今回のプロジェクトを通じ早期発見の重要性を痛感しました。我々が協力した「ポジショナー」の開発・製造に当たっては、スマイルカーブさんの要望に応えるべく、外部のデザイナーとの共同作業を選択。困難だったのは、機能・安全性と重量・サイズの制約を両立させることでした。実際の検診現場に同行し使用者目線に立てたこと、試作のたびに率直なフィードバックをいただいたことで、より精度の高い設計と検討ができました。
(左から)「ポジショナー」開発に携わった昇栄産業の吉田哲也さんと岩﨑聡代表取締役。デザイナーの山口昌平さん
公社からも、構造や部材選定に関する助言、設計ソフトを用いた強度解析などを利用できる施設「OiF」の紹介など、様々なサポートをいただきました。自分たちの従来のアプローチだけでは困難だった課題を克服し、無事に製品化できたことをうれしく思います。
(左から)「ポジショナー」開発に携わった昇栄産業の吉田哲也さんと岩﨑聡代表取締役。デザイナーの山口昌平さん
「多摩ものづくりスタートアップ
起業家育成事業」支援の概要
ものづくり領域特有の
課題突破をサポート
革新的な技術を持ちながら、量産化の壁や資金調達の難局に直面するものづくりスタートアップ。東京都中小企業振興公社の「多摩ものづくりスタートアップ起業家育成事業」は、ものづくり領域特有の課題を突破するための支援プロジェクトだ。多摩地域は、高度な技術力を持つ中小企業が集積する。同事業は、多摩地域を中心とした産業資源をスタートアップと連携させ、研究開発から市場投入までのリードタイムを大きく短縮させることを目的としている。
支援メニュー
- 伴走支援(開発計画策定・実行サポート、事業化に向けた各種助言)
- 費用支援(1年目最大300万円、2年目最大1000万円)
- テストマーケティング(ユーザー意見の収集機会)
- マッチング支援(事業化へ向けた連携先企業の紹介)等
対象者
- ソフトウエアとハードウエアを融合したプロダクト等(ハードウエアを有するプロダクト)を自ら開発し、それを活用した新規事業を立ち上げようとしていること
- プロダクトのプロトタイプ(原理試作)を作成済みであること
- 都内の中小企業者(創業10年未満)または都内で創業を具体的に計画している個人(個人は支援決定後速やかな法人化が必要)であること 等
※詳細は募集要項を確認
事業化に向け踏み込んだ
ハンズオン支援
「多摩ものづくりスタートアップ起業家育成事業」の最大の特徴は、単なる資金援助にとどまらない、事業化に向け踏み込んだハンズオン支援にある。
試作・量産の伴走 例えば、大学の研究室にある原理技術を、いかにして「売れる製品」へと昇華させるか――。各分野の専門家が、開発計画策定や設計変更のアドバイスから量産ラインの構築までを徹底支援する。助言だけでなく、計画を実現する協業先とのマッチングやテストマーケティングも行う。
先端設備等の活用インフラ 例えば、大企業からのスピンアウト者が苦慮する、高額な解析装置の利用や実証先とのマッチングについて、公設試験研究機関など公的・民間インフラを網羅的に提供し、固定費リスクを軽減するためのサポートを行う。
ビジネススキームの強化 例えば、知財戦略やブランディング、資金調達におけるVCとの折衝戦略などを立てる。ビジネスをスケールさせるための経営基盤の構築を専門家がサポート。スタートアップの事業をビジネスとして成立させるプログラムが用意されている。
資金支援 例えば、優れた技術で社会課題を解決する製品開発を、いかに途切れさせず進めていくか――。まだ原理的であるがゆえに民間からの資金調達に苦慮するスタートアップの意欲的な開発を公的資金でサポートする。
求む。既存の産業構造揺るがす「イノベーションの種」
「多摩ものづくりスタートアップ起業家育成事業」が求めるのは、既存の産業構造を揺るがすような「イノベーションの種」だ。社会実装を目指す大学発の独創的な要素技術や、大企業の既存の枠組みでは実現困難だった革新的なビジネスモデルなどだ。期待される領域は、ロボティクス、宇宙開発、次世代モビリティー、医療機器、ヘルスケア、次世代エネルギー、搬送ロボットなど、物理的な「ハードウエア」が介在するすべてのものづくり領域をカバーする。
採択のポイントは、「技術(製品の機能性能など)の新規性・市場性」に加え、同事業のネットワークを活用することで、いかに事業化へ向けてスピード化・スケールできるか、という成長可能性と支援の必要性だ。加えて、公社を事業化のパートナーとして、事業化に向けた意見交換を積極的に行い、動くことができる柔軟さや真摯な姿勢が求められる。


