バランス・スコアカードとは?経営戦略を数値化する手法
バランス・スコアカードとは?経営戦略を数値化する手法

事業を成長させていくためには、自分が心を込め、練りに練った経営戦略を、日々の具体的な行動に落とし込み、戦略と現場の乖離が大きければ、有効な対策を検討し、実行するためにも、現場での進捗状況を継続的に確認してことが重要です。 しかし、例えば、経営戦略の実現に向けて掲げた「顧客満足度を高める」「業務を効率化する」「人材を育成する」といった方針を実際の行動に落とし込んだとしても、進捗状況を確認する際に、具体的な評価基準がなければ、順調なのか、あるいは、追加で何か対策が必要なのか、などを判断することは難しいでしょう。 そこで活用できるのが「バランス・スコアカード」です。バランス・スコアカードは、売上や利益などの財務面だけではなく、顧客、業務プロセス、人材や組織の成長という複数の視点から経営戦略を整理し、具体的な数値で管理する手法です。本記事では、バランス・スコアカードの基本的な考え方や4つの視点、実際に活用する際のポイントについて解説しますので、皆様の創業や経営に対し、より円滑に進捗するための一助となれば、それに勝る喜びはありません。それでは、さっそく見ていきましょう。
目次
バランス・スコアカードとは
バランス・スコアカードとは、企業の経営戦略を具体的な目標や指標に落とし込み、戦略の実行状況を管理するための手法のことです。「Balanced Scorecard」の頭文字を取り、「BSC」と呼ばれることがあります。 冒頭の繰り返しになりますが、どんなに精緻な経営戦略を策定しても、それが日々の現場に反映されなければ、期待する成果につなげることは難しくなります。 そのため、バランス・スコアカードでは、経営戦略を「何を目指すのか」「どの数値を確認するのか」「誰がどのように取り組むのか」という具体的な形に整理します。 例えば、「地域で選ばれる店舗になる」という戦略を掲げた場合、売上だけでなく、顧客満足度、リピート率、接客時間、スタッフ研修回数などを管理対象とすることができます。 つまり、抽象的な戦略と具体的な行動を結びつけるための仕組みが、バランス・スコアカードです。
なぜ財務数値だけでは不十分なのか
企業経営では、売上高、利益、利益率、資金繰りなどの財務数値を確認することが重要です。一方で、財務数値は過去の事業活動の結果として表れる側面があります。 例えば、「売上が低下した」という事実が分かったとしても、その原因が顧客満足度の低下なのか、商品提供までの時間なのか、従業員の知識不足なのか、など売上の数字だけでは、判断できない場合が少なくありません。
そのため、現状をより正確に把握するためには、財務数値に影響を与える前段階の活動を確認する必要があります。顧客からどのように評価されているか、業務が適切に行われているか、人材が成長しているか、など多面的な視点から確認することで、問題の原因や改善すべきポイントが見つかりやすくなります。 バランス・スコアカードの最大の特徴は、財務と非財務の両面から経営を確認することで、将来の成果につながる取り組みまで管理できるという点にある、と言ってもよいでしょう。
バランス・スコアカードの4つの視点

それでは、実際の考え方について、ご説明します。バランス・スコアカードでは、一般的に「財務の視点」「顧客の視点」「業務プロセスの視点」「学習と成長の視点」という4つの視点から経営戦略を整理します。 これら4つの視点は、それぞれが独立しているわけではありません。また、どのような状況にあっても常に共通するものでもありません。業種や状況により、視点の関係性が変化するということは、運用する前提として押さえておく必要があるでしょう。 その上で、例えば、従業員の知識や技術がネックとなっている状況だとしたら、その点が向上することによって、現場での業務品質やスピードが改善する可能性があります。 そして、業務品質やスピードが改善すれば、顧客満足度やリピート率の向上につながることが期待でき、その結果、売上や利益の増加につながっていくことが期待できます。このように、4つの視点をつなげて考えることで、最終的に財務面での成果を生み出す、という流れを整理することができるのです。 それでは、一つずつ見ていきましょう。
財務の視点
まず一つ目として「財務の視点」では、経営戦略の成果を売上や利益などの数値から確認します。 企業が事業を継続し、成長していくためには、安定した収益や資金の確保が欠かせません。 具体的な指標としては、売上高、営業利益、利益率、売上成長率、顧客単価、資金残高などが考えられます。 例えば、「3年後に売上高を1.5倍にする」という目標を設定した場合、年間売上目標だけではなく、月間売上、顧客数、顧客単価などに分解することで、進捗を確認しやすくなります。 一方、売上だけを注目していると、過度な値引きや広告費の増加によって利益が減少することもあります。そのため、自社の経営戦略に合わせて、売上と利益の両方を確認することが重要です。
顧客の視点
次に、2つ目の「顧客の視点」では、自社の商品やサービスが、顧客からどのように評価されているかを確認します。 企業が継続的に売上を生み出すためには、サービスや価格、広告などで競合している企業の中から、顧客に選ばれ、利用を続けてもらうことが重要です。 具体的な指標としては、顧客満足度、リピート率、新規顧客数、解約率、紹介件数、口コミ評価などが考えられます。 例えば、飲食店であれば再来店率や口コミ評価、オンラインサービスであれば継続利用率や解約率を確認する方法があります。 自社が「丁寧な対応」を強みとしている場合は、顧客アンケートの評価や、問合せへの対応に対する満足度を指標にすることもできます。 このように、顧客の視点を判断材料の指標として取り入れることで、売上の結果だけでなく、顧客から選ばれる理由や改善すべき課題を把握しやすくなります。
業務プロセスの視点

続いて3つ目となる「業務プロセスの視点」では、経営戦略を実現するために、社内のどの業務を改善すべきかを考えます。 顧客に高い価値を提供し続けていくためには、商品開発、製造、販売、接客、納品、アフターフォローなどの業務が、常に適切に行われる必要があります。 そこで具体的な指標としては、商品提供までの時間、問合せへの対応時間、納期遵守率、不良品率、作業時間、受注から納品までの日数などが挙げられます。 例えば、「対応の早さ」を競争力の源泉にする場合は、問合せへの平均返信時間や、見積書提出までの日数を管理するのも良いでしょう。 「品質の高さ」を強みにする場合は、不良品率や、顧客からの苦情件数を確認することも有効です。このように、自社の業務を細分化し、必要な工程を数値化することで、課題を抱えている工程を発見し、その課題に対する具体的な改善策の検討から実行につなげることができます。
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学習と成長の視点
最後4つ目として、「学習と成長の視点」では、将来の事業成長に必要な人材、知識、技術、組織、情報システムなどを考えます。 短期的な売上や利益だけを重視すると、中長期的な視点が薄まり、従業員の育成や新しい仕組みの開発など、事業の将来に向けた投資が後回しになってしまうことがあります。 しかし、事業を将来にわたって成長させるためには、継続的に競争力を生み出す土台づくりが重要です。 そこで、具体的な指標としては、研修時間、資格取得者数、社内勉強会の回数、業務改善の提案件数、従業員満足度、システム導入率などを挙げることができます。 例えば、新しいサービスを開発するのであれば、必要な知識を持つ人材の育成や、開発に関する専門的な情報収集の仕組みの構築も効果的です。 今後、どのような能力や、組織体制が必要なのかを考え、その実現に向けて、スケジュールと合わせて進捗を数値で確認していくことは、自社の経営戦略を実現するために欠かせない視点の一つです。
4つの視点を因果関係でつなげる
このように、バランス・スコアカードを活用する際には、4つの視点を個別に管理するだけではなく、それぞれの目標がどのようにつながっているか、をつなげて考えることが大切です。 例えば、「利益を増やす」という財務目標を達成するために、「リピート率を高める」という顧客目標を設定したとします。 「リピート率を高める」ためには、「商品の品質を安定させる」という指標や、「効果的な広報を実施する」といった指標によって、業務プロセスを改善する必要があるかもしれません。 さらに、業務プロセスの改善を実現するためには、「品質向上に向けた従業員の技能研修を行う」、「顧客情報を共有するシステムを導入する」、「自社に合うような広報事例の情報収集や広報スキルの習得・実践」といった、組織としての学習と成長を継続していくような取り組みが、その時の置かれた状況によっては、効果的な場合もあるでしょう。 こうした手法により、その時の状況に応じて、柔軟に各目標を因果関係でつないでいくことで、最終的な経営成果につなげていくための取組みや手順を整理することができます。
戦略マップとは
さて、以上の4つの視点について、設定した目標のつながりを図にしたものを「戦略マップ」と呼びます。 「戦略マップ」と「バランス・スコアカード」は、企業の経営戦略を明確にし、それを具体的な行動や数値目標に落とし込んで実行するための強力なフレームワークとして、セットで使われることが多く、戦略マップを作成することで、経営戦略の全体像を社内で共有しやすくなります。 例えば、下から「従業員の提案力を高める」➡「提案書作成の時間を短縮する」➡「顧客満足度を高める」➡「売上を増加させる」という流れを図で示すことができます。

文章だけで戦略を説明すると、従業員によって受け取り方が異なる場合がありますが、関係を図にすると、どの業務がどの成果につながっていくのか、を理解しやすくなります。特に、複数の従業員がいる企業では、経営者の考えを全員に、同じように伝えるときに効果的です。自社では、日々の業務と経営目標がどのようにつながっているか、戦略マップで整理してみると良いでしょう。
KGIとKPIを設定する
くわえて、バランス・スコアカードを数値管理にさらに活かしていくための手法として、「KGI」※1と「KPI」※2を設定する方法があります。 KGIとは、「最終的に達成したい経営目標を確認する指標」です。 例えば、売上高、営業利益、契約件数などを挙げると分かりやすいでしょう。 一方、KPIは、「KGIの達成に向けた、途中の進捗を確認するための指標」です。 例えば、売上を増やすために、問合せ件数、商談件数、成約率、リピート率などをKPIとして設定する、などが考えられます。 最終目標だけを確認していると、未達成だった場合に一体何が原因だったのかを把握しにくくなります。原因が把握できなければ、次につなげていくための改善策が立てられないばかりか、この状況が続いてしまう、あるいは、悪化していくことさえ考えられます。そのため、途中の活動を示すKPIを設定することは重要です。とは言うものの、数値を設定すること自体が目的となっては本末転倒ですので、自社の戦略実現につながる数値かどうかを設定する前にしっかり確認をしながら決めていきましょう。
KGI※1 …Key Goal Indicator(重要目標達成指標)
KPI※2 …Key Performance Indicator(重要業績評価指標)
バランス・スコアカードの作成手順
バランス・スコアカードを作成する際の全体の流れを整理します。作成に当たっては、まず、企業の経営理念や将来像、経営戦略を明確にします。 次に、その戦略を実現するための目標を、財務、顧客、業務プロセス、学習と成長の4つの視点から整理します。 続いて、目標ごとに達成状況を確認する指標と目標値を設定します。例えば、「顧客から選ばれる店舗になる」という戦略であれば、顧客満足度、リピート率、接客研修回数などを設定する方法があります。 さらに、各指標について、誰が確認するのか、どのくらいの頻度で確認するのか、目標未達の場合にどのような対応を行うのかも決めます。この流れで整理することで、経営戦略を日々の行動に落とし込みやすくなります。
創業期に活用する意義や、活用する際のポイント

ここまでご覧いただいた読者の中にはお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、バランス・スコアカードは、大企業だけが使う経営管理手法ではなく、創業期や小規模な企業も活用できる手法です。ここでは、創業期に活用することの意味やポイントをお伝えしていきます。創業期は、社内ルールが十分に整備されていない場合もあり、バランス・スコアカードが軽視されてしまうケースが少ないとは言えません。しかし、資金や人材、時間などの経営資源が限られている創業直後だからこそ、その貴重な資源を、どのように配分するのか、言い換えると、どの資源を・どの分野に、いつ投下していくのか、これらのことを客観的に判断し、実行に移すことは、重要な意思決定のプロセスであると言えます。 例えば、創業直後の店舗であれば、財務の視点では月間売上、顧客の視点では再来店率、業務プロセスの視点では商品提供時間、学習と成長の視点ではスタッフ研修回数などを設定できます。ポイントは、最初から多くの数値を管理する必要はないということです。 まずは各視点につき、実施可能な範囲で1,2項目の指標を設定し、毎月確認することから始めると良いでしょう。数字を確認しながら改善を続けることで、感覚だけに頼らない経営につながります。
指標を増やしすぎないことがポイント
バランス・スコアカードを作成するポイントは、管理する指標を増やしすぎないことです。というのは、経営状況を細かく確認しようとして数多くの指標を設定すると、数値を集計するだけで時間がかかり、本当に重要な指標が分かりにくくなることがあるからです。 特に、創業期や少人数の企業では、数値管理そのものが業務負担になる可能性があります。そのため、「この数値が改善すれば、経営戦略の実現に近づくか」という視点で、必要な指標を絞り込みましょう。 例えば、顧客満足度を高めることが最優先であれば、関連する指標を中心に管理します。事業の成長に合わせて、必要な指標を追加したり、役割を終えた指標を外したりすることも大切です。
定期的に確認し改善を続ける
また、バランス・スコアカードは、一度作成して終わりではありません。 設定した目標や指標を定期的に確認し、必要に応じて改善することが重要です。 例えば、月に一度、各指標の実績を確認し、目標との差を分析する方法があります。目標を下回っている場合は、原因を考え、具体的な改善策を決めます。 一方で、目標を達成している場合でも、その数値が現在の経営戦略に合っているかを確認する必要があります。 市場環境や顧客ニーズが変化すれば、重要な指標が変わることもあります。そのため、数値を記録するだけではなく、数値をもとに次の行動を決めることが大切です。 継続的な確認と改善を行うことで、経営戦略の実行力を高めることが期待できます。
専門家に相談しながら整理する

このようなポイントを踏まえつつ、自社の経営戦略、顧客への提供価値、業務上の課題などを整理しながら、自社のバランス・スコアカードを作成していく必要があります。 しかし、経営者だけで考えていると、気付かないうちに、目標が抽象的になったり、管理しやすい数値だけを選んでしまったりするものです。 そのような場合の有効な対策として、創業支援の専門家に相談しながら整理する方法もあります。第三者の視点を取り入れることで、自社では気づきにくかった課題や強みを発見できることも少なくありません。 TOKYO創業ステーションTAMAでは、創業を検討している方や、事業を始めて5年未満の方に向けた相談、サービスやセミナーを実施しています。経営戦略や事業計画を具体化したい場合は、こうした支援を活用しながら、自社に合った目標と指標を検討するのも効果的な選択肢としておくとよいでしょう。
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まとめ
バランス・スコアカードとは、「財務」「顧客」「業務プロセス」「学習と成長」という4つの視点から経営戦略を整理し、具体的な目標や数値に落とし込む手法です。 売上や利益だけではなく、顧客からの評価、社内業務の改善、人材や組織の成長までを、「戦略マップ」とセットで作成・確認することで、経営成果を生み出すまでの流れを把握しやすくなります。 経営戦略は、策定するだけでは十分ではありません。何を目指し、そのために何を改善し、どの数値を確認するのかを明確にし、なるべく正確な課題を発見し対策を打つことが重要です。 まずは自社の経営戦略を4つの視点から整理し、それぞれに必要な目標(KGI)と指標(KPI)を設定してみましょう。 定期的に数値を確認し、改善を積み重ねることで、戦略と日々の行動を結びつけた事業運営を目指すことができます。
オススメ!企業戦略を考える上で、フィリップ・コトラー(Philip Kotler)の「競争地位別戦略」の考え方は、外せません。以下のブログで解説しています。
コトラーの競争地位別戦略(リーダー・チャレンジャー・フォロワー・ニッチャー)とは?
本記事では、コトラーの競争地位別戦略の基本的な考え方と、リーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャーの特徴について、一般的な内容を中心に解説します。
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著者:
平井 東(ひらい あずま)
銀行にて法人向け貸出業務、税理士法人にて事業計画の作成業務、経営コンサルティング会社にてマーケティング戦略の立案・SEO対策・MEO対策・WEBサイト制作のディレクション等の業務、デジタルマーケティング会社にて大手企業向けのリスティング広告の運用業務、現在は、デジタルマーケティングと経営コンサルティングを行う会社を設立し、中小企業のご支援を行なっている。中小企業に必要な資金繰り・事業計画・計画達成のための戦術にあたるデジタルマーケティングのノウハウを持っている。中小企業診断士。
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