起業家が毎月確認すべき「4つのお金」-黒字倒産を防ぐ資金管理の基本実務-
起業家が毎月確認すべき「4つのお金」 - 黒字倒産を防ぐ資金管理の基本実務 -

「売上は順調に伸びているはずなのに、なぜか銀行口座の残高が増えない──」。起業初期の経営者の多くは、このような違和感を覚えます。実は、会計上の「利益」と、手元にある「キャッシュ(現金)」は全くの別物です。どれほど帳簿上で黒字であっても、手元の資金が底をつけば事業は継続できません(いわゆる黒字倒産)。 事業を存続させ、拡大へと導くためには、お金がどのように循環しているかを正しく把握することが不可欠です。 今回は、起業家が毎月必ずチェックすべき「4つのお金」の性質と、その管理実務について解説します。
目次
現金及び預金:自社の「猶予期間(ランウェイ)」はあと何か月か
「現金及び預金」とは、手元にある現金と、普通預金などのように「いつでも使用可能な預金」を合わせたものを指します。定期預金などのように、すぐに使用できないものもここには含みません。
資金管理において最も重要な問いは、「万が一、明日から一切の収入(お金の入金)が途絶えた場合、会社はあと何か月生き延びられるか」という点です。事業活動における収入がゼロになり、オフィスの家賃や人件費、自身の生活費などの固定費(支出)だけが、毎月発生し続ける「極限状態」を想定してみましょう。
資金ショートを回避する目安として、上記のような状況で「3〜4か月は事業を継続できる資金残高」を常に維持できているかどうかが、ひとつの防衛ラインとなります。この水準をキープできていれば、不測の事態に直面しても慌てることなく、冷静に対処法(資金調達や営業方針の転換など)を検討でき、安心して日々の事業拡大に専念できるでしょう。例えば、毎月の固定費(支払額)が50万円の場合、手元には「最低でも150万〜200万円の現金及び預金」を確保しておく必要がある、といったイメージです。
売掛金:「売上の確定」と「実際の入金」にはタイムラグがある
「売掛金(うりかけきん)」とは、顧客との取引が成立し、売上が計上されたものの、まだ代金は支払われておらず、現金化されていない状態の「未回収の債権」を指します。 「売上が立った」からといって、その瞬間に手元のお金が増えるわけではありません。ビジネスの現場では、多くの場合、取引から入金までに数週間から数か月のズレ(タイムラグ)が生じます。
【具体例として、ホームページ制作の場合を考えてみましょう】
- 受注時:100万円の案件を受注(この段階では、売上も現金もまだ発生しません)
- 納品・検収時:制作物が納品し、顧客の最終確認(検収)が完了した時点で「売上(100万円)」だけ、先に確定します。
- 売上計上時:帳簿上には100万円の「売上」とともに、同額の「売掛金」が計上されます。しかし、現金はまだ入っていません。
- 入金時:契約に基づいて、翌月末などに100万円が口座に振り込まれた時点で、「売掛金」が「現金及び預金」に置き換えられ、はじめて「使用可能なお金」になります。
預り金:いずれ社外に流出する「使ってはいけないお金」

「預り金(あずかりきん)」は、その名称の通り「一時的に自社の口座に預かっているだけのお金」です。自社の利益でも売上でもないため、一時的に手元の口座残高を増やしているように見えても、「将来的に必ず社外へ出ていく(支払わなければならない)お金」として、区別しなければなりません。
具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 源泉所得税:従業員や外注先(個人)に給与や報酬を支払う際、事前に天引きして預かっている所得税
- 社会保険料:従業員の給与から天引きして預かっている健康保険料や厚生年金保険料(労使折半となるため、会社負担分と合わせて納付します)。
- 消費税:お客様から、対価とともに受け取り、決算後に国へ一括(または中間)で納税する消費税。
これらのお金は、支払期限(納付期限)が法律で厳格に定められています。 もし納税や納付が遅れた場合、税務署や年金事務所から督促状が届くだけでなく、延滞税や加算税、延滞金といった重い「罰課金(ペナルティ)」が課されることになります。そのため、預り金には一切手をつけず、別枠でしっかり管理しておく必要があります。
借入金:経費化されない「元金返済」を計算に織り込む
「借入金(かりいれきん)」とは、金融機関などの外部から調達した負債(借金)です。ただし、起業直後で1事業年度(決算)を経過していない場合は、一般の民間銀行からの融資は、ハードルが高くなります。そのため、創業初期は、スタートアップ事業者への支援融資を積極的に行っている「日本政策金融公庫」や、自治体などの制度融資を活用するのが一般的です。
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通常、借入金を返済する場合は、利子とともに元金も返済します。ここで注意が必要です。
1、「利息」は経費になるが、「元金」は経費にならない
返済時に支払う「利息(金利)」は、資金を調達するためのコストとして経費(費用)に計上できます。しかし、返済する「元金(もともと借りたお金そのもの)」の返済部分は、経費になりません。これは、融資を受けた時に入ってきたお金が、収益(売上)にならないのと同じ理屈です。
2、「利益が出ているのにお金がない」原因になる
元金の返済は経費にならないため、「利益に対してかかる税金」を支払った後の「税引後利益」から、返済資金を捻出しなければなりません。返済スケジュールを考慮せずに資金繰りを考えていると、「利益は出ているのに、借入返済のせいで口座残高が激しく減少していく」という事態に陥ります。借入金がある場合、事前に「毎月、いつ、いくらの元金と利息が口座から引き落とされるのか」を確実に見込んでおく必要があります。
毎月1回は数字を確認する習慣を作る──「資金繰り予定表」のすすめ
これまでに紹介したポイントを踏まえて、資金繰りの不安を取り除く最も有効な手段は、数字を直視し、将来の予測を立てることです。 毎月、一定の基準日(例えば月末など)に手元の資金残高を確認し、そこから今後2〜3か月程度の入出金予定を見込んでみましょう。
これを表形式にまとめたものを「資金繰り予定表」と呼びます。
厳密な表を作成するのが難しい段階であっても、まずは簡易的なメモでも構いません。「もし、想定していた売上入金が一切なかったと仮定して、手元の資金だけであと何ヶ月もつか」 この最悪のシナリオ(ストレステスト)を毎月検証してみてください。その上で「3〜4か月は確実に持ち堪えられる」という根拠が確認できれば、資金ショートに対する過度な不安は消え去り、本業である営業活動や事業拡大に全精力を注ぎ込むことができるようになります。
オススメ!基本的な仕組みと見方について、初心者向けに分かりやすく解説しています。
「資金繰りの基礎知識」
「資金繰り」という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。しかし、内容をちゃんと理解している人は以外と少ないかもしれません。事業展開において資金繰りは極めて重要な意味を持ちます。本ブログでは資金繰りについて解説します。
まとめ:支払いの「先行」に注意し、不安があれば早期に専門家へ相談を
起業初期において、特に注意すべきなのは「売上が急激に伸びている局面」です。ビジネスが拡大する時期は、売上の入金に先んじて、仕入れ代金や外注費、追加採用した人件費などの「支払い」が先行して発生します。この「支払いの先行」によって、黒字であるにもかかわらず、資金が底をつくケースが非常に多いのです。 今回ご紹介した「4つのお金」を毎月1回、定点観測する習慣をつけるだけでも、資金ショートの予兆を格段に早くキャッチできるようになります。
【毎月チェックすべき「4つのお金」チェックシート】
- 現金及び預金
無収入だとして、固定費の「3〜4か月分」以上の余力はあるか - 売掛金
未回収の代金の「入金期日」と金額は正確に管理できているか - 預り金
税金や社会保険料として「いずれ支払うお金」を口座に残してあるか - 借入金返済
経費にならない「元金返済額」を資金計画に織り込んでいるか
少しでも資金繰りに不安を覚えたり、今後の融資や助成金の活用方法についてプロのアドバイスが必要だと感じたりした場合は、問題が深刻化する前に、ぜひ早期の専門家相談をご検討ください。
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著者:三浦 昭彦
大学卒業前に公認会計士試験第2次試験に合格し、卒業とともに現在のあずさ監査法人に入社。その後、三浦公認会計士事務所を独立開業したが、創業時代の苦しみを味わう。10年後に同事務所を母体として、アーク税理士法人と現在のアーク有限責任監査法人を設立。約20年間理事長として多くの上場企業の会計監査責任者を務めた。公認会計士・税理士。
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