金 順玉先生インタビュー(TAMAプランコンサルタント)

金 順玉先生インタビュー
(TAMAプランコンサルタント)

金 順玉先生
金 順玉先生

こんにちは!TOKYO創業ステーションTAMAの相談員にインタビューを行う企画、第8弾はプランコンサルタントの金 順玉(きむ すのう)先生をお招きしましてインタビューしてみました!中小企業診断士として長年ご活躍されていますが、一度も会社勤めをしたことがなく、3人の子育てをしながら家業の経営に携わった経験を活かして活躍されています。そんな金先生の相談極意に迫ります。

― 現在のご自身の事業や手掛けられていることを教えてください

中小企業、特に小規模事業者さんの売上アップ支援が中心で、全体の仕事の半分くらいのウエイトです。ほかにセミナー講師や助成金等の原稿の執筆をしています。
商工会や商工会議所等の公的な機関からの依頼が多く、小売業やサービス業中心に2000社以上支援をしてきました。支援業種は幅広く、小売業は、洋菓子店・和菓子店・パン店・花店・ブティック等が多いです。珍しい小売業では、傘専門店、日本茶専門店等が印象に残っています。
サービス業は、カフェやレストラン、お弁当店等の飲食関連事業所、学習塾やピアノ教室などの「教える系」の事業所、整体や鍼灸院・ネイルサロンやエステ等が多いです。規模は1人~10人程度の小規模事業所が多く、それぞれ独特な特徴があります。最近は「大家さん業」をやる方も増えてきました。
小売りやサービス業以外では、少ないですが卸売業や運送業、製造業の支援もあります。業種としての専門性は高くないのですが、解決すべき課題がBCP計画作成や融資の為の事業計画書作成、組織活性化や経営戦略立案等、どの業種にも共通する経営に関わる支援時には依頼が来ます。

金先生

金先生の担当曜日は毎週木曜日。相談は10時~17時・1回45分以内(無料)


小売業やサービス業における具体的な相談内容としては、売上アップの支援が中心です。売上が減少している要因を内部面・外部面から分析し、対応策を考えていきます。
最近は仕入れ価格の上昇や消費税支払いのために、「値上げ」に対する相談も増えました。「値上げしてお客様が離れたらどうしよう?でも値上げしないと利益が減少するばかり」と板挟みで悩む経営者の方が多いです。値上げに関しては、同じ商品をただ一律に値上げするだけではお客様の理解を得にくいので、飲食店だったら盛り付けやメニュー版の演出工夫などで「商品の付加価値」を高めること提案します。同じウナギでも、どんぶりに入ったうな丼とうな重では、うな重の方が高価に見える工夫と一緒です。
また、商品やサービスの魅力をアップする演出も大切です。小売店なら陳列や店舗レイアウトの工夫、サービス業なら提供サービスの特長をヒアリングしながら、競合に比較した強みを引き出し、魅力を言葉でも伝えられるようキャッチコピーなども一緒に考えていきます。

― これまでの経歴を教えてください

私は、会社勤めした経験がありません。若くに結婚し、嫁ぎ先はいろいろな事業を営んでいました。
ある時、優秀な事務員の方が辞められて事務が滞るようになったので家業を手伝うようになりました。中心となる事業は都心のオフィス街にあり、上場企業の幹部の方たちが接待用として使う飲食店を経営していました。 ただ、その事業も時代とともにニーズが減少していきます。高級感が必要な店舗だったので80坪ほどの広さがありましたが80坪の席が埋まらない日々が続きました。その半分の面積なら予約でいっぱいになったのですが、ビルのワンフロアを借り切っていましたし、半分の広さでは高級感も出ないことから、どうすればよいのかいろいろ戦略を練り試行錯誤しました。しかし、そのときの戦略が誤っていたことから、業績が回復しませんでした。
結局この業態のままではうまくいかないと思い、思い切って事業転換を図る決断をしました。 その時に戦略を考えるという経験をしました。実現するまでにはいろいろと大変なことの繰り返しでしたが、当時の日経MJにボーリング場の片隅に設置したカラオケが大人気という記事を見て、時代に合うビジネスはこれだという結論に至りました。最終的には、これから流行ると判断したカラオケルームと、当時流行りつつあったイタリアンレストランとの併設店を開くことにしました。
ただ、以前のお店は和食の調理人さんはいたのですが、イタリアンのシェフはいませんでしたので、イタリアンのシェフ捜しから始めました。飲食店の場合、美味しい食事の提供は重要な要素なので、あちこちのイタリアンを食べ歩き、ここと思ったお店のシェフをスカウトするという方法でしたが、大変なエネルギーのいることでした。 優秀なシェフを見つけ出し引き抜いて本格的なイタリアンレストラン併設のカラオケルームに転換し成功するという経験をしました。

金先生

新規ビジネスを始めるにあたって重要なことは「投下した資金をどう回収するのか」ということだと経験として学びました。

その時は、先駆者利益もあり時代の波に乗ってうまくいくのですが、その後の時代の変化に対応していくことがもっと重要なことと認識させられました。
というのは、流行り始めると次第に競争相手が増えてくる、そして必ずあとから大手が出てくる。カラオケボックスという新たな業態もその中で生まれ、どんどんたくさん出てきました。そうすると戦略を変更しなければなりません。その後も結構業態転換を繰り返しています。
業態転換をするというのは新規ビジネスを始めるということなので、「投下した資金をどう回収するのか」という重要性にも気づき、投資回収期間の重要性も学びました。

会社の財務は、税理士さんが毎月会社にきて決算書を見てくれていましたが、私は当時決算書が読めませんでしたし財務分析ができない状態でした。税理士さんがおっしゃっていることと、実際に経営に携わって感じていることとピントが合わない、感覚があわない、税理士さんが言っていることはちょっと違うのではないかと経営者の感覚として思うことも多かったです。だけど、どう違うのか言うことができなかったです。
業態変換するときも事業計画書を書いて融資を引き出さなければいけないのですけれども、税理士さんが事業計画書を作成してくれたのですが、この事業計画書はちょっと違うなあと思いました。自分に知識がないからどこがどう違うかがわからないまま、言われるまま事業計画を出して融資を受けていました。

その時までは、マーケティングの本などをたくさん読んで売上を上げるためにとか、経営を良くするためにという勉強はしてきていました。でも、その時にもっとお金の計算の勉強が必要と切実に思いました。決算書が読めないというのは良くない、致命的だなと感じたのです。もっと、お金のことや財務分析をしたいというきっかけで中小企業診断士の勉強を始めました。
自社の財務分析をして今後の経営戦略を考えることや、人材活用のことなど、経営者の時にもっと知っていれば良かったということが勉強してみてたくさん感じました。
家業なので私も経営に携わっていましたが、診断士に合格した頃は会社も落ち着いていたことや、代表はあくまで主人でスタッフも大勢いましたので、私が会社に毎日出なければ会社が回らないという状況ではありませんでした。私自身としては、これまでの経験と得た知識を他の方に役立てたいとの思いから、中小企業診断士の仕事に重きを置くようになりました。


金先生

対面・電話の他、オンライン(zoom)でも気軽に相談できます

私の経験としても経営に携わった当初は財務諸表を読み取れなかったですし、中小零細企業の社長さんたちも財務分析ができていない場合が多いように感じます。税理士さんが付いているから大丈夫と思っていらっしゃるけど実は大丈夫ではなくて、会社が良くない状態なので支援に行くのですが、決算書を見ると、なんでこんなにひどくなるまでほっておいたのだろうという形が多いです。税理士さん任せにしていたり、なんとなくお金が回っているので、財務分析ができないばかりにひん死の状況に陥っていることに気が付いていないです。
当初は民間企業の顧問もありましたが、バブル崩壊後の影響であまりにも財務状況が悪く顧問料が滞りがちなところが増えました。ただ、財務分析ができるようになった私は顧問料よりも先に支払うところがあることが切実にわかっていたので、売掛金回収をあきらめる場合も増え徐々に民間企業の顧問契約を減少させたことがありました。そのため、今でも財務分析をして経営状況を把握することは支援の基本だと考えています。

― 起業相談の得意分野は?

業種でいえば小売業、サービス業ですが、得意なのはわかりやすく「事業計画書を作る」ことです。
「事業計画書」というと難しそうと思い避けて通りたいと悩む方が多いのですが、事業計画書は、運動会の予行演習のようなものなので、これから始めるビジネスを「紙上」で予行練習することと思えば、作成する意欲もわいてくると思います。
数字に関してももともと私自身が苦手な分野だったので、分かり易い数字の事例を出しながら説明するので、わりと皆さんスムーズに事業計画書を作られています。

金先生

事業計画書(決算書)を改めて手書きしてみると、売上や費用の内訳が見え、数字を具体的に意識して気づきが生まれます

また最近は、今までにない新しいサービスを考えビジネスを始める方が多いのですが、その場合は提供する「商品やサービス」がわかりにくい方が多いです。何をどれくらい販売するのかが分からなければ、お客様も購入できないし売上予測もできません。
そのため、起業においては何を売るのか「販売する商品計画」が大切だと考えています。また、それをいくらで販売するのか?、どんな商品をどれくらい揃えるのか?等をヒアリングしながら一緒に考えていくことを大切にしています。
ただ、商品を作ればよいというものでもなく、お客様にとって「欲しい商品・サービス」ではないと思ったような売上が望めません。そのため、いろいろヒアリングしながら、魅力ある商品。サービスの形にしていくことが結構得意です。ヒアリングを重ねることでその方が持つ強みや魅力を引き出していきます。

私は、会社勤めの経験はないのですが、経営者としての立場と3人の子育て(主婦)の経験があるので、経営戦略を考えるときに消費者、生活者の経験(特に女性の立場)を活かすことができます。お客様の気持ちがわからないと消費者ニーズはつかみにくいのですが、子供が小さい時から成人するまでの消費者の気持ちやライフステージがわかるのは、経営戦略を考えるときの強みだと思っています。
企業が売上上昇(消費者にとっては購買金額アップ)のために仕掛けている戦術もわかりますし、消費者として仕掛けられているのを知っていながらもそれに乗ってしまう自分もいます。
それはお互いにwin-winの関係だからだと思います。win-winの関係を築くことができれば、売上確保も続くので、両方の立場から経営を考えることが大切だと思っています。 消費者目線だけだと採算がとれない場合も多いのですが、売上確保の視点が勝ると売上が継続しない場合が多いです。
バランスを取りながらビジネスとして成り立つかの視点も加えた経営計画作りが得意です。


金先生

子育てや主婦としての経験は、利用者の気持ちや置かれた環境を思い浮かべることができ、
生活者・消費者のニーズをとらえるのに役立っています

― これまでの相談で印象に残っている相談内容があれば教えてください

バレエ教室を開きたいという方がいました。バレエを習いたいというニーズはあるのですが、出店しようとする地域にすでに競合の教室がいくつもありました。ただ、バレエ教室もバレリーナを目指す本格的な教室から、ダンスレッスンのような教室まで多岐にわたっています。また、クラシックバレエ、モダンバレエなど種類も様々です。
そこで、競合分析を行い、自店の特徴を打ち出すことにしました。一般的にバレリーナを目指し上達していきたいような方が通う教室の月謝は高額で月謝の他にも発表会準備の特別レッスン等年間でかなり費用がかかります。その方のターゲットは、本格的なバレリーナを目指す層ではなく、興味があってバレエを一度やってみたいなといった層、習い事の一つとしてやってみたい方がターゲットで、想定の月謝もピアノ教室程度でしたので差別化できると思いました。自店の特徴を打ち出し競合と比較することで、競合が多い地域でも生徒を獲得できるチャンスがあることがわかりました。

― 起業相談で心掛けていることは?

相談者様の話しをよく聴くことです。
起業したいけれど、まだビジネスのかたちがぼんやりしていて、何から始めればよいのかわからないと悩む方が多いです。 ビジネスのかたちが作れるように、まずは相談者様の話しをよく聴くことを心掛けています。
お話しを聴く中で、どんなビジネスを目指していきたいのか、何を販売しようとしているのか、ターゲットは誰なのか等を一緒に考えていきます。そして、採算が取れる売上はどれくらいなのか等お金に関する計算もお伝えしていきます。
お金の計算は、単純な数字での例をご紹介しながら、数字が苦手な方でも分かりやすくなることを心掛けています。私自身がもともと数字が苦手なところから出発しているので、苦手な方の気持ちも良く理解できるからです。

金先生

起業はものすごくエネルギーがいります。困難にぶつかることもあります。本当にやりたいことですか?

― 起業相談の前に準備しておいたほうがよいことは?

起業を考えるときのスタートは、自分がやりたいビジネスか、そのビジネスが好きかを考えることだと思っています。
たとえば結婚するときに、「この人と結婚したら幸せになれる」という気持ちで結婚するよりも、「この人なら苦労しても乗り越えていける」と思う人と結婚した方がよいと言われます。結婚生活は幸せなときばかりではなく苦労もつきものなので、「幸せになれる」と結婚したのに苦労すると、「こんなハズではなかった」と後悔する場合が多いというのです。
ビジネスも同じです。ビジネスもよいときばかりではなく困難にぶつかるときもあります。そのときに、好きでやりたいことだったら、このビジネスのためならどんな苦労もいとわないと、エネルギーを注いで頑張れると思います。「儲かりそうだから」だけでそんなにやりたいことではないと、こんなハズではなかったということになります。
そのため、始めようとしているビジネスは、やりたくて頑張れるビジネスかを振り返って考えてみてください。
また、起業して3年後や5年後にどうなっていたいのか「理想の姿」を思い描くことも大切だと思っています。
3年後や5年後に「ここにたどり着きたい」というイメージがあり、好きで得意なビジネスだったら、がんばる力の源泉になるからです。

相談員紹介

相談員紹介 TOKYO創業ステーションTAMA
プランコンサルタント
金 順玉(きむ すのう)


家業である飲食店等の経営において、売上促進や業態転換などの経営戦略に携わり、その後経営コンサルタントとして独立。延べ2000社以上の様々な業種の経営改善に携わるなかで、SNS等で情報発信する前に、お客様にとって魅力ある商品作りや演出が不可欠なことを数多く経験。そのため、売上アップに必要な「お客様が欲しい商品・サービスの開発や演出」支援を多く展開している。何もないところからビジネスを起こす創業支援や、創業セミナー講師を多数経験し、初心者にわかりやすく伝えることに定評がある。中小企業診断士、消費生活アドバイザー。

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著者写真著者:TOKYO創業ステーションTAMA Planning Port 事務局 村岸 伸樹
食品メーカーにて法人営業、監査業務に従事。2022年4月に公益財団法人東京都中小企業振興公社に入社し、TOKYO創業ステーションTAMA Planning Port 事務局に着任。

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