【開発/起業】蓄電池の容量アップにつながる新素材を事業化カルコジェニック株式会社 西村重雄さん
【開発/起業】蓄電池の容量アップにつながる新素材を事業化
カルコジェニック株式会社 西村重雄さん
TOKYO創業ステーションTAMAを利用して起業された方の体験談をご紹介するシリーズ企画。第3回は、高純度の硫化スズなどを製造販売しているカルコジェニック株式会社の西村重雄さんです。リチウムイオン電池や全固体電池の蓄電容量を倍増させる新素材として活用が期待されている高純度の硫化スズ、その開発の舞台裏に迫りました。

国内外のメーカーが待望する次世代電池の新素材開発に挑戦しようと起業に踏み切った西村重雄さん
目次
― 価値ある研究を事業化して社会に還元したい

①


西村さんが製造販売している①硫化スズ粉末と②硫化スズ分散液
2020年創業のカルコジェニック株式会社は、リチウムイオン電池などの負極材 (※1)に使える「硫化スズ」を製造販売している材料メーカーです。 リチウムイオン電池の負極材は現在ほとんどが黒鉛で作られていますが、蓄電容量が低く環境汚染のリスクも高いことから、大学などの学術研究機関では、自然界に豊富に存在するスズと硫黄の化合物「硫化スズ」の活用が何年も前から模索されています。しかし、採算のとれる量産プロセスが確立されていないため、事業会社ではほとんど活用されていないのが現状です。
その課題に真っ向から挑戦しようと、24年間勤めた電子部品メーカーを40歳後半で退職し、硫化スズなどの14族カルコゲナイドを高純度で簡単に製造できる方法を解明した研究者を取締役に迎えてカルコジェニックを起業した西村重雄さん。プロセスエンジニア(※2)として培ってきた幅広い経験をもとに独自の微細化プロセスを確立し、黒鉛の約4.7倍(※3)も蓄電できるナノスケールの硫化スズ粉末と硫化スズ分散液を完成させました。
他社製の硫化スズとは違って高純度で不純物がほとんど含まれず、分散性(※4)が高いことが特徴で、さまざまな電子デバイスへの応用が期待できることから、化学や産業経済の専門紙で報じられるほど大きな注目を集めています。驚くべきことに製造するための主要な機械設備は西村さんが独自に設計したもので、まさにカルコジェニックだけが提供している希少価値の高い製品です。
※1 充電・放電するための材料
※2製品の製造や量産化のための工程を設計・開発・評価する技術者
※3体積あたり
※4 沈澱せず、溶解液の中で均一に分散された状態を保てる性質のこと。写真②を参照。
― 「良い製品だから売れる」ではなく「売れるから良い製品」

世の中には、学術的に高い評価を得ていながらも、一般の人たちが使う製品・サービスにはまったく活かされていない研究成果が多数存在します。西村さんは、電子部品メーカーで働いていたころから学術の最前線にアンテナを張り、研究者が解明した最新技術に生命を吹き込んで新規事業を立ち上げたいと模索してきました。その思いを実現する上で大きな力となったのが、TOKYO創業ステーションTAMAのプランコンサルティングでした。
「当初は、起業してから3年くらいで試作品を完成させて量産体制を確立するという楽観的なイメージを描いていました。前職では経営にも携わっていたので、事業計画書の書き方も十分理解しているつもりでした。しかし、私が当初書いた事業計画案は『本当に売れるかどうか』というマーケティングが非常に甘かった。4ヶ月間のプランコンサルティングで、その点を、しっかりと指導していただきました」(西村さん)
西村さんが窓口で紹介を受けたプランコンサルタントは、大手家電メーカーで世界各国の事業企画やマーケティングの統括責任者を歴任してきた横田真理也先生です。
「当初は半導体向けの硫化スズ材料に絞ったビジネスを想定していましたが、横田先生との面談を重ねるうちに視野が広がり、先行論文調査やサーベイなどの結果も踏まえ、用途や市場をもっと広げて材料がマッチする市場を探すことが重要であるということに気づきました。そして、硫化ゲルマニウムもラインナップに加えることにより、14族カルコゲナイド材料を顧客に提案する『企画提案会社』という当社のコンセプトが明確になりました。このように間口を広げた結果、電池商社や電池関連メーカーの目に留まり、二次電池向け硫化スズ負極材を事業化する糸口をつかむことができました」と、西村さんは振り返ります。
そのほか、銀行の人にも分かるよう、難解な専門用語を避けて書き直すようにアドバイスをもらったことで「絵に描いた餅ではなく、しっかりした事業基盤を築いていくための事業計画書を書き上げることができました」と西村さん。
また、当初は起業してすぐに創業助成金を申請する予定だったそうですが、横田先生に相談する中で、売れる筋道が見えてきてから申請しようと思い直し、創業3年目の2022年(令和4年度)に申請して採択されたそうです。
「創業1年目に開発した硫化スズのナノシートはほとんど売れず、現在は3年目に開発した分散液と4年目に開発した粉末が主力製品となっています。実は3年目、4年目の開発は当初の事業計画とは異なります。事業計画書は『書いて終わり』ではなくて、状況に応じて書き直しています」と、西村さんは語ります。
― 目標は10年後に売上高400億円の新市場を生み出すこと


西村さんは創業助成金を活用して、CEATECに出展したほか(写真左※5)、「nano tech」(写真右※6)にも出展。4、5社から引き合いがあり、ようやくPoC(検証プロセス)に進む案件も出てきました。今は西村さんのオフィスに併設されているラボで試作品を少量製造している段階ですが、今年から来年にかけて量産方法を確立し、2028年には月産100〜200kgの試作量産を開始したいと考えています。
※5 一般社団法人電子情報技術産業協会主催の展示会。西村さんは東京中小企業振興公社が「東京ビジネスフロンティアプロジェクト」として共同出展するブースに参画した。
※6 株式会社JTBコミュニケーションが主催する展示会
また、この間、TOKYO創業ステーション主催のSkill Upセミナー「2時間でマスタするWordPress入門。WordPressで自社Web頁を作成しよう!」をオンラインで受講し、公式サイトを自作。多忙な中でも、発信力を高める努力も続けられています。
「2029年以降で量産開始し、2034年までには株式上場して、400億円規模の新しい市場を生み出して成長させていきたいです」と西村さん。最終的には、材料だけではなく、電子デバイスまでつくるという大きな夢を抱いています。
最後に、これから起業したい読者の皆さんへのメッセージもいただきました。
「できることからアクションに移すことが重要と考えています。ひとたび行動アクションを起こせば、支援者も反対者も現れるでしょう。その時、応援して下さる方の存在はもちろん大切ですが、辛口の意見も成長のためには必要です。なぜダメ出しされたのか徹底検証することでブラッシュアップのヒントが見えてきます」
西村さんのように、リスクを負ってでも研究成果を事業化させようと挑戦する企業が増えていけば、日本のものづくりはさらに勢いを増していくことでしょう。
会社情報
カルコジェニック株式会社
東京都羽村市緑ヶ丘1-5-12マンション中野102号室
Webサイト:https://chalcogenic.co.jp
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ものづくり分野での実用化、事業化を目指している西村さん、とても素敵ですね。 TOKYO創業ステーションTAMAでは、このような起業を目指す方の事業計画書の作成をサポート(ブラッシュアップ)しています。無料でプランコンサルタントが事業計画書へのアドバイスを実施していますので、ぜひご相談してください。 お越しいただける日を楽しみにしております。まずは、メンバー登録からお願いします。
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