わたしの創業ものがたり
株式会社でぃぐにてぃ 編
COMPANY INFORMATION
株式会社でぃぐにてぃ
代表者名/吉田 真一
東京都新宿区高田馬場 1-29-7 スカイパレス504
居宅介護・重度訪問介護・同行援護・訪問介護事業
2014年12月創業
http://digunity.co.jp/
—企業メッセージである「世界いち気持ちいい介護」とは、具体的にどのようなものですか?
まず当社では、障がいを持つ利用者の方々を“お客様”と呼んでいます。社名の元にもなった「Dignity =尊厳」という意味の英単語にもあるように、たとえ障がいがあっても自分で生活を決定づけ、人として当たり前の暮らしを送る事は当然の権利であるはずです。ところが介護の現場では、当事者の思いが置き去りにされる事もしばしば。車椅子生活を送ってきた私自身、家にある物が勝手に動かされる、年下から馴れ馴れしい言葉遣いをされるなど、良かれと思った介助で居心地の悪い思いをするという経験も少なくありませんでした。
そのため当社では、人によってさまざまなお客様のニーズをまず徹底的に伺うことを重視しています。同時に介護事業を“対人支援によるサービス業”と捉え、心の通ったコミュニケーションによってその方が最大限にできる自立を支援し、皆が笑顔になれたら……。そんな思いを「世界いち気持ちいい介護」というメッセージに託しました。
「自身も当事者なのが強み」と吉田社長
―異業種でのサラリーマン経験を経て、創業を決意されたきっかけを教えてください。
16年間の会社員時代には、研究職としてコールセンターのマーケティング業務に携わっていました。仕事自体は楽しかったものの、組織内で働く難しさも感じていた、そんなある日のことです。信頼を寄せるヘルパーさんから、離職率の高い介護現場に疲弊し切っている、という悩みを打ち明けられたんです。プライベートも犠牲にして働きながら、社会的にも経済的にも報われない介護職の実情に強い憤りを感じ、自分にも何かできる事はないか……。そう考えたとき、介護事業を創業するビジョンを思い描くようになりました。
―創業に向けて、どのような準備をされましたか?
妻の出産を控え、家のローンもあった事から、まずはプレゼン資料などで本気度を示し、家族の理解を得ることが必要でした。また区の創業支援センターにあるインキュベーションオフィスで創業ノウハウを学びつつ、同業他社の経営状況をリサーチし、介護福祉経営士の資格も所得するなど、会社勤めと併行して準備を進めました。
この間は徹底的に節約し、貯めた自己資金は300万円でした。さらに創業から3年間のキャッシュフローを作成し、日本政策金融公庫と新宿区の制度融資も受けることができました。会社員時代に培ったマーケティングの手法を、ここでは存分に活かす事ができたと思います。
―創業時のご苦労があれば教えてください。
参加してくれる従業員2名も見つかり、創業まで1か月弱という土壇場で、うち1名が前職を辞められない事になったんです。人あっての事業なので延期も考えましたが、師と仰ぐ区の創業支援センター長から「約束を果たして信頼を守るべき」と諭され、残り10日で何とか採用を実現して、予定日に無事、創業することができました。最後まで諦めない姿勢とともに、企業にとって信頼がいかに大切かを学ぶいい機会にもなったと思います。
―「創業助成事業」について、申請された理由と用途、またその効果を教えてください。
創業から1年、収支は何とかプラスになりましたが、事業を軌道に乗せるこれからという時期に、手持ちの資金不足で採用を増やせないジレンマに陥っていたんです。このタイミングで助成金をいただける事になり、求人広告費、さらに新規採用分の人件費などに充てる事ができました。振り返っても、これがなければ会社の存続は難しかったというほど大きな助けだったと実感しています。
―人手不足と言われる介護業界ですが、採用活動ではどのような取り組みをされていますか?
需要は多くあるのに人材が集まらないという実情はありますが、手をこまねいている訳にはいきません。当社では、ホームページや求人サイトなどでの採用活動に思い切って投資をしています。若い人材にターゲットを絞り、明るく楽しい職場のイメージをアピールした効果もあって、お陰様で2015年度に2名、2016年度には3名と、目標を上回る採用を実現することができました。
お客様のニーズを汲み取るには、とにかく話を伺うことが大切です。その意味でも当社が目指す介護事業においては、素直に耳を傾ける事のできる若者の方が有利だと考えています。インターンに来た学生が「思ったより楽しそうな仕事だった」と話してくれた事からも、当社の理念に共感を得る事はできたのでは、と考えています。
―介護業界における課題や、会社として目指している方向を教えてください。
「世界いち気持ちいい介護」をモットーにする上で、スタッフが気持ちよく働ける環境づくりは不可欠ですが、旧来の介護業界では、非効率な業務システムがまだまだまかり通っているのが現状です。これに対して当社では、給与体系や勤務時間、福利厚生などの整備を始め、研修やメンター制度、面談の機会を充実させるなど、スタッフを多方面にサポートする体制づくりを重視しています。介護業界全体を魅力あるものにするために当社が牽引できることがあれば、これほど嬉しいことはありません。
社内メンター制度や面談、研修が充実。若手スタッフとの距離も近い
―ご自身の将来の夢、そして創業を目指す方へアドバイスがあればぜひお聞かせください。
3年前の創業当時に比べると、お客様の数はお陰様で2.5倍にまで増えました。障がいの種類も多岐にわたり、また行政から他施設経由で紹介された重度のお客様にも、当社のサービスを継続利用いただいています。
将来的には、こうしたさまざまな障がいを抱えた方が一度に集まれる、地域包括支援の場所を作ることが目標です。誰もが将来は避けられない介護に向き合い、成熟した社会を実現できたらという夢を描いています。
創業や事業を拡大する上で、厳しい時は必ずあります。けれど杞憂ばかりでは何も始まりません。食事と睡眠をしっかり取って、メンタルを良い状態に維持できれば、おのずと道は拓けると信じることが大切だと思います。
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