わたしの創業ものがたり
アイ- コンポロジー株式会社　編

素材ベンチャー「アイ- コンポロジー」では間伐材の木粉を使ったウッドプラスチック素材を展開。環境にやさしい上、通常のプラスチックよりも質感に優れ変形しにくいなど、画期的な特長を備えています。実はこの素材の原型は以前、会社員時代に開発したもの。この素材を広めるために創業したのですが、資金回収に時間がかかる開発・製造分野のベンチャーにとって、創業助成事業は大きな意味を持つと言います

COMPANY INFORMATION

アイ- コンポロジー株式会社
東京都品川区北品川5-5-15
大崎ブライトコア4F SHIP413 バイオ複合材料の開発・製造
2016年4月創業
https://www.i-compology.com

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代表取締役／三宅 仁（みやけ ひとし）
広島大学大学院工学研究科。大手石油会社での研究職を経て2016年　アイ-コンポロジー株式会社を設立。

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「この技術を日本に残したい」という一心で創業

創業のきっかけは、前職の会社員時代に開発した新素材を世の中に広めたいと思ったことです。それは長年、国内外で開発が試みられながらも叶わなかった環境に配慮した画期的な素材でした。ところが、事業の優先順位などを理由に、会社の判断でプロジェクトが中止となってしまったのです。「このままでは、この技術は消えてしまうかもしれない。なんとしても日本に残さなければいけない」と思い、創業を決意しました。

とはいえ、会社員でしたし、資金力には限りがあります。そこでさっそく創業助成金などを申請し、採択されたときはとても助かりました。

当時の素材をさらに改良したものが、今、当社の主力商品となっている「ｉ －ＷＰＣ」です。木粉とプラスチック（ポリプロピレン）を混ぜ込んだ「ウッドプラスチック」という素材で、一般のプラスチックよりも環境への負荷が少ない上、質感や強度、耐久性など、多くの面で優れています。

ウッドプラスチック自体は以前からあり、これまでも「腐らない木材」ということで、公園施設やウッドデッキなどに使われてきました。ただ、いわゆる「押出成形」しかできず、板状や棒状のものしか作れないという限界がありました。素材を熱で溶かし、金太郎アメのように押し出して形にする加工法です。

一方、ｉ －ＷＰＣは「射出成形」をはじめ、色々な形に自由にデザインできることが最大の特徴です。今、プラスチック製品として流通しているものの多くは、この素材でつくることができます。

もうひとつ、環境にやさしいという特長も見逃せません。プラスチックはリサイクルされても、最終的には焼却処理されます。今、世界的に二酸化炭素（ＣＯ２）排出量の削減が叫ばれていますが、ｉ －ＷＰＣでつくった製品は、この焼却時のＣＯ２排出量を大幅に減少させることができるのです。木材を燃やして出るＣＯ２は光合成に使われるので排出量に加算しないという「カーボンニュートラル」という考え方が適用されるからです。また、材料の木粉には国内の間伐材を使っているので、森林保全にも役立ちます。

バイオエコノミー（生物経済）市場が世界的に急成長しつつある今、企業にとってｉ －ＷＰＣのようなバイオ複合材料の活用がますます重要になっていくことは間違いありません。すでにヨーロッパでは家具やオモチャ、トレーなどの身の回りのものだけでなく、ＢＭＷやメルセデス・ベンツといった車にもバイオ素材を活用するなど積極的な動きが出ています。

助成金で新技術開発にもはずみ

２０１８年、当社は新たに、やはりプラスチック素材の代替などに使える、セルロースナノファイバー（ＣＮＦ、植物繊維をナノレベルまで解きほぐしたもの）と樹脂を複合した素材を発表しました。新素材の開発に力を注げたのも、助成金などがあったからこそです。

さらに別の新しい材料として、海に廃棄されてもほぼ１００％分解され、自然に還る生物分解性樹脂も開発を進めているところです。この素材を製品に使えば、世界的に問題となっている海洋プラスチックゴミの解決にも大きく役立つはずです。

日本から世界へ発信

私たちは複合材を開発・製造し、部品や製品をつくるメーカーなどに販売しています。開発から製造までには時間も費用もかかりますが、販売するまで売上が発生しません。私たちのような業種にとって、とくに助成金は大きな力になっていると感じています。

助成金の主な使途は人件費、それから展示会出展費用などの広告費です。ヨーロッパなどに比べて日本は環境への意識がまだ低く、バイオ複合材そのものがあまり知られていません。そこで、有益性や優越性について積極的にアピールし、啓発していく必要があります。展示会にも創業以来多数出展し、反響を得てきました。

今後も、森林保全やＣＯ２排出削減、そして海岸プラスチックごみ問題に貢献できる材料技術として、また日本から世界に発信できる特長ある材料として普及に努めていきたいと思っています。

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創業を目指す方へ～応援メッセージ～

創業に必要なのは、信念、アイデアと実行力、そして謙虚さかと思います。特に企業を退職してシニアで創業される場合は、「過去の栄光にすがらない」という のは心しておきたいことかもしれません。

創業には、資金面など苦労も伴います。それでも「これを実現したい」という信念があるならば、挑戦する価値があると思います。苦労を上回る喜びやかけがえのない幸せが待っているというのが、私たちの実感です。自分たちがいいと思ったアイデアをすぐに実行に移せる面白さは、特に技術開発に携わる方には魅力的と思います。協力会社や研究者の方々と話していると夢が広がりますし、「これもやってみようか」「こういうこともできるんじゃないか」と新しいアイデアが湧いてきてワクワクするものです。また、今のような変化の早い時代には、意思決定と実行の間に時間差がないことはベンチャーならではの大きな利点だと思います。

今、東京都をはじめ各自治体が創業支援に力を入れていますから、まずは相談に出かけてみてはいかがでしょうか。