わたしの創業ものがたり
株式会社東京有機農家 編

東京有機農家

新規就農者として東京都内では3 人目、地元青梅市では初の柳川貴嗣さん。それほど農業への参入がむずかしい東京であえて地元にこだわり、有機農業をスタートしたのは、持続可能な「都市型循環農業」、そして循環型社会を実現するためだったといいます。今、その試みに賛同される方たちが増え、取引先も拡大。人にも社会にも環境にも優しい、これからの農業をリードする一人です。

COMPANY INFORMATION

株式会社東京有機農家
東京都青梅市千ヶ瀬町5-627
青梅市内の有機農家から買い上げる野菜の販売およびマネジメント
2016年11月創業
http://yuuki-nouka.tokyo/



代表取締役/柳川 貴嗣(やながわ たかつぐ)
法政大学社会学部社会政策科学科卒業。(株)ワタミファームに5年間勤務。千葉、北海道の農場で畑、酪農、養鶏、乳製品加工センターを経験。2010年に地元青梅市で初の新規就農。有機JAS認証を取得し、2016年に㈱東京有機農家を設立。2017年に東京都から農業後継者顕彰を受賞。東京都青梅市で、循環型社会を目指し有機農業に従事。




環境問題を解決する
「都市型循環型農業」を目指して


東京都青梅市で有機農園「ヤナガワファーム」を始めた後、2016年に地元の有機野菜を買い上げて卸す(株)東京有機農家を起ち上げました。安全でおいしい野菜を消費者に届けたいという思いと、有機農家を応援したいという思いからです。ヤナガワファームで主に栽培しているのはニンジン、タマネギ、ジャガイモ、キャベツです。ふだん何げなく家庭の食卓に上っている野菜がどれほど美味しくなるかにこだわって育てています。東京では数少ない有機JAS農家として認定も受けています。


私は農家出身ではなく、自分で始めたいわゆる新規就農者です。青梅市は土壌が肥沃で、都内でも最大の農地を有する地域ですが、新規就農者は私が初めてです。実は東京都全体でも3人目にすぎません。


日本の農業は後継者不足や遊休農地などの問題を抱え、衰退していくことが心配されています。にもかかわらず、新規参入が難しく、特に東京ではハードルが高いのが現実です。農地の確保が難しいこと、作業場の維持費といった諸経費が高いことなどが理由です。


ですから、2017年に創業助成事業に採択され、作業場の家賃などに使えたことは、助かりました。農業は畑だけでなく、倉庫代わりや出荷作業などに使う場所がなくては始まらないからです。


そもそも農業に興味を持つようになったのは、大学時代、地球環境について学んだことがきっかけでした。環境問題を解決する鍵は農業にあると思い、卒業後は大手民間農業法人に就職しました。そこで栽培技術や農業経営について学び、5年ほどして独立し、生まれ育った地元青梅市で有機農業を始めたのです。



農業をベースにして社会を変えていく


農業はスタートしてから収益が上がるまでに時間がかかる産業です。土作りから始まって栽培、収穫、そして販売に至ってようやく現金収入が入りますが、その間も経費がかかり続けます。


そういう面でも、創業助成事業に採択されたことは心強かったです。これまで作業場の家賃や備品購入に使っています。


作業場とは別に、いま、事務所を自分たちでリフォーム工事をしています。そこにはキッチンスペースをつくり、出荷できない野菜を加工し、キッチンカーやインターネットで販売しようと考えています。



農業から卸売事業へも進出
大手企業や学校給食との取引がスタート


循環型社会とは、化石燃料をなるべく使わず、環境に負担をかけないようにする社会のことをいいます。そのためには、まずゴミを出さない、次に出てしまった ゴミはできるだけ資源として利用する、最後にどうしても利用できないものは適切に処分することが必要です。たとえば、ペットボトルの場合は「リサイクル」という形で循環させます。


循環型社会を実現するためにヤナガワファームでは、まず、地元の豆腐店のおからや有機ビールの会社の麦芽などを使って堆肥を作っています。そうしてできた堆肥でたとえば有機ホップを作り、そのビール会社で有機ビールに生まれ変わります。あるいは有機大豆を作り、その豆腐店で有機豆腐として販売されます。


こうした循環によって土壌の質が上がっていき、自然の力を生かした栄養満点の作物ができていくのです。


次世代のためにも循環型農業を広め、循環型社会を実現することが急務ですが、そのためには、育てた作物を消費者に確実に届けることも大切になります。


そこで(株)東京有機農家を起ち上げ、その翌年に創業助成事業に申請し、採択されました。助成金を作業場の家賃に活用してきたおかげで、今では大手食品、 大手スーパーの総菜工場、学校給食、自然食品店や飲食店など、取引先が広がっています。


今後は毎年、受け入れている農業研修生の数も増やしていくつもりです。卒業生は有機農家として独立し、育てた作物は東京有機農家が買い取り、販売します。新規農家にとって販売先の確保は必須ですが、難しいのが現実だからです。


こうして次世代の農業を担う人材を育てながら、さまざまな企業や人とつながり、循環型社会の実現をめざしていきたいと思っています。



創業を目指す方へ~応援メッセージ~

農業に限らず、創業は「しようと思ったときがベストタイミング」だと思います。そのためにも、助成金や融資に関する知識は欠かせません。その「タイミング」の時に自己資金が十分とは限りませんし、十分だとしても経済的なサポートがあるに越したことはないからです。


また、人とのつながりを大事にすること、常にアンテナを張っていろいろな人と会うことも必要でしょう。私も農家の方々にもたくさん助けていただきましたが、意外にも別の業種の方との出会いが新規のプロジェクトや販売先開拓のチャンスにつながってきました。


創業後は思いがけない困難に直面することもあります。そんなときはピンチをチャンスに変えるくらいの発想を持てたらと思っています。今年、ヤナガワファームも台風被害で大打撃を受けましたが、それをきっかけにクラウドファンディングを始めてみました。資金を集めるだけではなく、「支援していただく代わりに有機野菜を送る」という持続的なつながりを通して、広く農業や食について考えていただくチャンスにできると考えたからです。

株式会社 東京有機農家の利用サービス
創業助成金