インキュベーション施設を使う-起業ノカタチ- DMM.make AKIBA 編

インキュベーション施設を使う-起業ノカタチ- DMM.make AKIBA 編

インキュベーション施設を使う-起業ノカタチ- DMM.make AKIBA 編


創業者と、インキュベーション施設のマネージャー(以下IM)のお話を通じ、「インキュベーション施設を拠点にビジネスをすると、どんなことが起きるのか」を具体的に探るインタビュー。
今回は、株式会社Pyrenee(ピレニー)CEO三野龍太さんと、三野さんが入居される東京都認定インキュベーション施設『DMM.make AKIBA』のコミュニティマネージャー山田悟史さんにお話を伺います。


DMM.make AKIBAを利用する 先輩起業家 三野龍太 さんのストーリー

DMM.make AKIBAは、ハードウェア開発をトータルサポートできる総合型ものづくり施設。JR秋葉原駅から徒歩2分という好立地で、トータル会員数は4,000名以上という規模を誇っています。ドライバーを支援するAIアシスタントデバイス開発に取り組む三野さんが入居されたのは2016年1月。株式会社Pyreneeの創業と同時でした。


三野龍太

株式会社Pyrenee 代表取締役CEO 三野龍太

1978年生まれ。東京都出身。建築工具メーカーで製品開発を経験した後、独立して雑貨メーカーを立ち上げデザイン、生産、販売を行う。本当に人生を賭けるべきモノ作りとは何かを考えた結果「人の命を守る楽しい製品」との答えに行き着き、2016年にPyreneeを立ち上げる。最初の製品となる「Pyrenee Drive」の2021年発売へ向け、製品開発と量産準備を進めている。


山田悟史

DMM.make AKIBA コミュニティマネージャー 山田悟史

大手総合物流企業にてアパレルメーカーをクライアントとしたロジスティクスを中心に顧客窓口・出荷検品・在庫管理など約6年間従事。株式会社nomadにてシェアスペース事業と3Dプリントサービスの立ち上げと運営を経験。DMM.comに2014年に入社、DMM.make AKIBAのコミュニティマネージャーとして事業会社・スタートアップの支援や起業家・クリエイター支援プログラム『スタートライン』を担当。



TALK1 「人の命を守れる楽しい製品」の開発に、この先の人生を賭けたい


TALK2 事業の意義と未来を説明し、投資家と大企業の協力を得て量産化へ


TALK3 ものづくりに特化したサポートと、バラエティ豊かな出会いの機会


TALK4 世界を席巻するハードウェア開発に取り組める環境が、日本にはある



「人の命を守れる楽しい製品」の開発に、この先の人生を賭けたい

――製作に取り組まれてきたデバイス「Pyrenee Drive」について教えてください。




三野さん:「Pyrenee Drive」は、AIを活用したドライブアシスタントデバイスです。ダッシュボード上に設置していただくと、前面のステレオカメラが道路上の人や車の動きを把握し、道路上の物体認識や、危険予測をリアルタイムでAI処理。音声で警告し、ドライバーの安全運転をサポートします。ドライバー側はタッチパネルがついた液晶ディスプレイ。ドライバーの状況を確認するインカメラがついています。ドライバーが眠くなっていないか、よそ見していないかをモニターし、注意してくれます。



[左:Pyrenee Driveはダッシュボード上から運転をサポートする]  

[右:ドライバー側の画面は大きく、AI処理された危険予測も視認しやすい]  

――「Pyrenee Drive」を使うと、どんな未来が実現しますか?


三野さん:まず、交通事故が激減すると考えています。事故のほとんどは見落としや判断ミスといったヒューマンエラー。そのエラーを限りなく0に近づけるための製品です。もう一つは、デバイスで運転や交通に関するデータを収集して自動運転の進化に役立てたり、前面のカメラで把握した道路状況や町の状況のデータを活用する未来も考えられますね。


――三野さんが起業されたきっかけは、どんなところにありましたか?


三野さん:高校生の頃から製品開発に関わりたい。いつか起業もしたい。という思いがあり、建築工具の会社で経験を積み、25歳で文具や雑貨をつくる会社を立ち上げました。10年ほど続ける中で自分のライフワークは「新たな製品を生み出すことだ」と再認識し、より社会の役に立てて、インパクトある製品をつくりたいと考えるようになりました。
それってどんな製品だろうと考えると「人の命を守れるもの」じゃないかと思ったんです。車にはよく乗っていて事故を目撃することもありましたし、道を歩く息子の危なっかしい動きにヒヤヒヤすることもありました。交通事故で悲しむ人、苦しむ人を減らすことは意義がある。そう思って調べ始めると、自動運転のために開発された技術を使えば、安全運転をサポートできる製品が生み出せそうだとわかり、再び起業を決意しました。




――DMM.make AKIBAへ入居されたのはPyreneeの起業と同時なんですね!


三野さん:そうですね。起業前に、あるハッカソンで株式会社no new folk studioの菊川さんという方と出会い、ちょくちょく手伝いをするようになったんです。菊川さんたちが入居していたのがDMM.make AKIBA。出入りするうちに、ここまで広さがあって、設備の揃っているところはない。自分もハードウェアベンチャーとして起業するならここしかないと思いました。

山田さん:菊川さんとの出会いが入居のきっかけだったんですね。施設の特性から、ハードウェア開発に取り組む入居者さんが多いのですが、サポートできるものづくりの幅が広いこともあって、入居者さんの業種がかさなることはほとんどないですね。属性も幅広くて、大企業の開発担当やスタートアップ、大学生、アーティスト、業務時間外に自分のプロダクトづくりや研究をしたいという企業の方もいらっしゃいます。

三野さん:たしかに、全然かぶってないですね。ただ、ハードウェアの開発者がこんなに集結している場所は他にないので、技術面のつまずきも、建物内のつながりで解決できることがほとんど。ありがたい環境です。


事業の意義と未来を説明し、投資家と大企業の協力を得て量産化へ

――続いて、スタートアップがぶつかる壁についてですが……。


三野さん:言ってしまうと、全てが壁ですよね(笑)。中でも、ハードウェアベンチャーが最も苦労するのは、資金調達だと思います。プロダクトをつくるとどうしても初期投資がかかりますし、在庫も抱える。スマートに見えるSaaS系と違って、投資家からは敬遠されやすい分野です。地道に、事業の意義と可能性をプレゼンするしか方法がないと思います。プロダクトができてからは、投資家の方にも試作機の搭載した車に乗っていただき、使用感を体感いただいたりしましたね。


――ものづくり系スタートアップにとって大きな「量産化の壁」はどう乗り越えられましたか?


三野さん:もともと、量産はその道のプロと組みたいという思いがあり、SHARPさんに協力をお願いしました。SHARPさんはDMM.make AKIBAのスポンサー企業で、以前から社員の方とも顔見知り。イベントやフロア内で会うと、雑談したり、相談させていただくこともありましたね。SHARPさんの「量産アクセラレーションプログラム」で想像できなかったほどの経験値をお借りすることができました。
ほんの一例ですが、製品開発や量産のために欠かせない、良質なコネクションを惜しみなく紹介していただきました。加えて、「SHARPさんに紹介されたスタートアップ」を先方も無下にはできないということもあったようで(笑)。「一応、話は訊いてやるか」と受け入れてくださる会社が多く、ありがたかったですね。




山田さん:大手企業とスタートアップのコネクションづくりは、DMM.make AKIBAが得意としている支援です。スタートアップは、大手企業が培ってきたノウハウを活かした量産ができますし、「スタートアップと組んでスピード感ある開発に取り組みたい、自社の強みを独自のアイデアで活かしてほしい」と考える大手企業は多く、近年、DMM.make AKIBAのスポンサー企業も増えてきた印象です。これまでも、スポンサー企業や、近隣の中小企業などとの関係を培ってきました。入居者さんのお話をじっくり伺って、より適切な連携先をご紹介したいと思っています。


ものづくりに特化したサポートと、バラエティ豊かな出会いの機会

――DMM.make AKIBAに入居して、このサポートはありがたかったと感じたことはありますか?


三野さん:テックスタッフさんにはかなり助けられました。それぞれ得意分野を持つ約20名の技術者が在籍していて、開発の相談に乗ってもらったり機材の使い方を教わったりして、技術面の課題は幅広く解消されました。あと「テックオーダー」も活用させてもらいましたね。


山田さん:「テックオーダー」は、テックスタッフに製作そのものを依頼できるサービスです。スタートアップは投資家や提携先に成果を披露する機会も多く、「ここぞ」の場面で使いたい試作品を、製作のプロであるテックスタッフが請け負う体制が整っています。



[左:テックスタッフの皆さんは経験豊富な技術・開発経験を持つ]  

[右:様々な用途に利用できる機材も充分に揃っている]  

三野さん:仕上がりがやっぱり違いますね。アルミの削り出しや塗装まで完璧に仕上げてくれて。そういった技術者を自社で抱えられるスタートアップは少ない。そんな中、自社スタッフのように親身に試作品をつくってくださるので、それだけでも入居する価値があったと思います。




山田さんものづくりに限らず、コミュニケーションにかかるコストは計り知れないほど大きい。どんな思いでこの製品を設計し、どんなことを望んで製作を依頼するのかを、製作に関わる何社かにそれぞれ説明する……。その苦労を思うと、顔見知りのテックスタッフと話し合えば試作品ができる環境は、コストカットにつながっているはずです。


三野さん:仕事のスピード感が変わりますね。製作を外注すると、送られてきた製品を見て微調整を2、3度お願いしているうちにひと月近くかかる。テックオーダーの場合は、テックスタッフさんが作業する横で「もうちょっと、つやを消したい」みたいに口を出して(笑)、作業終了と同時に納品です。ハードウェアベンチャーの場合、プロダクトの有無、出来の良し悪しで投資家の反応がガラッと変わるのでとても助かりました。


――では、それ以外で入居していてよかったと思うことはありましたか?


三野さん:月並みですが、DMM.make AKIBAでの出会いですね。こちらの1周年パーティーで、今、PyreneeでCTO(最高技術責任者)を務める水野と出会ったんです。あの時意気投合してジョインしてくれていなければ、今どうなってたかな……怖いくらいですね。イベントやセミナーも頻繁に開かれているので、会社の根幹を左右するような大きな出会いが、他のスタートアップさんにもたくさんあるんじゃないかなと思います。



[2019年11月に開催された5周年記念イベント「THE SHIFT」で三野さんがプレゼンをする様子]
※現在は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、徹底した感染症対策がされていることから、イベント等はオンラインでのみ実施されています。

山田さん:企画・開催したイベントやセミナーが事業にとってプラスになったと言っていただけるとうれしいですね。スタートアップにとって、出会いやつながりは大切です。会員さんとコミュニケーションを取り、スポンサー企業ともおつなぎする機会として、隔月で「つながる交流会」を実施しています。

三野さん:「つながる交流会」は新たな入居者さんのプレゼンも聴けるので、僕も、なるべく顔を出すようにしています。外部の部品メーカーや商社とメーカーの方もよくいらっしゃるので、その場で知り合いになって、後に相談したりということもありますね。


世界を席巻するハードウェア開発に取り組める環境が、日本にはある

――月並みですが、DMM.make AKIBAのこの先についてお聞かせください。



山田さん:足し算ではなく、掛け算の支援を目指そうということは、スタッフ内でも共有しています。入居者さん同士やスタッフとの交流を促し、それぞれの得意分野を活かし合えるコミュニティをつくることで、入居者さんに伴走していきたいですね。中には、交流をそれほど求めていない会員さんももちろんいらっしゃいます。私自身は、まずその姿勢にも共感して「交流して見えてくる世界もありますよ」と、自然に手を引けるような存在になりたいです。
また、学生やスタートアップ、起業家・クリエイターを支援するプログラム『スタートライン』が2020年10月からスタートしました。施設利用に関わるさまざまな費用を免除し、DMM.make AKIBAのスポンサーやつながりのある企業とのマッチングもします。じっくり参加者に向き合って成長を支えていけたらと思います。今、プログラムに参加しているのは、比較的若い方が多いですね。現在(2021年1月)も募集していますので、特にハードウェア開発で起業したい方はぜひチェックしてください。


――続いて、Pyreneeの今後についてはいかがですか?




三野さん:まずは「Pyrenee Drive」を予定通り2021年中に発売すること。最初のお客さまは、運送系の会社になりそうです。仕事に熱心に取り組むほど、疲労もたまり、事故が起きやすくなる。さらに、重大事故は自動ブレーキ等の仕組みでは防ぎきれないということもわかってきて「社員や町の人の安全を守りたい」という強い想いを持った企業が注目してくださっています。
続いて、自家用車への搭載、普及を目指したいですね。日本には約7,000万台の車が走っていますが、そのうち5,000万台近くがマイカー。個人のお客さまに、安全で便利で楽しいドライブを実感していただき、ユーザーを増やしていきたいです。「Pyrenee Drive」は、オンラインでアップデートできます。発売後もソフトウェアの改良を常に続けるので、発売後が本当のスタートかもしれないですね。安全運転を支えるパートナーとして頼りにしてもらえて、愛されるデバイスに進化させていくこともこれからの目標です。



社名とロゴマークは、ピレニー山脈の強くて優しい牧羊犬「ピレニー犬」に由来。「Pyrenee Drive」が、ユーザーの良きパートナーになってほしいという三野さんの想いが込められている。


――三野さんから、創業を考えている方に伝えたいことはありますか?


三野さん:一言にすると「日本には、ハードウェアベンチャーが世界を目指せる環境が整っているからチャンスだよ!」ですね。これから起業される方は、グローバル展開を目指す方も多いと思いますが、現時点で、海外にサービスを拡げていくには「アメリカでの普及」が前提条件。そんな中、Web系のサービス等は、アメリカのスタートアップや大企業と張り合って勝ち抜かなければならないのでハードルが高いんです。




その点、日本のハードウェアベンチャーにはチャンスがあります。当社もサポートいただいているSHARPさんなど、世界と長年戦ってきた大手メーカーと製品をつくることもできますし、多様な部品メーカーさんともつながれるし、グローバルメーカーの多くは日本に支社を持ち、世界の先進技術や情報に国内にいながらにして触れられます。環境的には、シリコンバレーにも負けていないと思います。
起業して、もしも上手くいかなくても、日本なら生きていけるので大丈夫です(笑)。ハードウェアは出来上がるまでが大変ですが、やってみたいと感じたらぜひチャレンジしてほしいです。


株式会社Pyrenee
千代田区神田練塀町3 富士ソフト秋葉原ビル12階
DMM.make Akiba 101


DMM.make AKIBA
千代田区神田練塀町3富士ソフト秋葉原ビル 10階・12階




 
岡島 梓

ライター 岡島 梓

150名を超える経営層・事業家へのインタビューを行い、ビジネス系メディアでの執筆多数。記事の作成、キャッチコピーの開発を通じ、取材対象者の思いや魅力を伝わりやすく再構築している。
早稲田大学第一文学部卒業後、2007年東京地下鉄株式会社へ入社。人事業務に従事し、退職後にライターとして活動。2020年、インタビュアーとグラフィッカーがお客さまの思考の言語化をサポートする「ビジュアルインタビュー」をスタート。



※ 本レポートは、対談実施当時の情報を、レポートとして掲載したものです。実際に施設のご利用をされる場合は、各施設にお問い合わせください。

※認定インキュベーション施設は、優れた創業支援を行う計画を定めた施設を、東京都が認定した施設です。東京都中小企業振興公社は、認定インキュベーション施設のうち要件を満たす施設に対し、施設を整備する際の補助金などを交付し、事業の充実を支援しています。