インキュベーション施設を使う-起業ノカタチ-
番外編
「TOKYO UPGRADE SQUARE」SEMINAR EVENT~事業スピードを加速させるインキュベーション活用という選択肢~
新型コロナウイルスの影響により、自らの働き方、そして「働く場」の在り方について誰もが思いをめぐらす時代になりました。志を持つ起業家の「働く場」も多様化し、成長フェーズごとにふさわしい場所も変化します。そんな中、起業家や起業を目指す人から「働く場」として選ばれているのが、インキュベーション施設。充実した設備といったハード面だけでなく、ソフト面からも起業家をサポートしてくれる施設も増えています。
今回は、東京都認定インキュベーション施設の運営者側である松本さん・斎藤さんと施設の入居者側である海藤さん・浮田さんの対談イベントを開催。起業家にとってのインキュベーション施設の魅力や、施設運営者、そして起業家の想いをお伝えします。
<イベント概要>
日時:2021年7月27日(火) 16:00~17:30
会場:オンライン(zoomウェビナー)
対象:行政との協働を目指すスタートアップ、行政機関・自治体、スタートアップ支援団体、VC・金融機関、大企業、メディア等
主催:(公財)東京都中小企業振興公社
東京理科大学インベストメント・マネジメント株式会社
インキュベーション事業部長 松本 真典(まつもと しんすけ)
株式会社肥後銀行の市場金融部門にて外国為替ディーラー、国内外債券投資、先物・オプション・スワップ等デリバティブ、ファンド投資を担当し、海外駐在勤務も経験。その後日興アセットマネジメント商品開発部において機関投資家向けファンド企画開発担当を経て、2019年7月より現職。不動産運用部長を兼務し学生寮含めオフィスビル・居住用ビル等の取得・開発も行う。2020年10月に開設したインキュベーションオフィスTHECROSSOPINTにてスタートアップ支援に従事。
株式会社Shinonome THE CROSSPOINT 富士見 コミュニティマネージャー
齋藤 茜(さいとう あかね)
1996年生まれ、外国語学部英語学科卒。大学卒業後、留学者の受け入れ元である語学学校の運営を経験した後、東京理科大学発ベンチャー企業の株式会社Shinonomeにて、無償でプログラミング教育を提供する「実践型IT教育コミュニティ-PlayGround」のコミュニティマネージャーを担当。同時に、東京理科大学インベストメント・マネジメントが運営する、東京都認定インキュベーション施設「THE CROSSPOINT」のコミュニティマネージャーとして、入居者同士のネットワーク構築・会社の成長を加速させるようなきっかけ作りを行なっている。
株式会社サイエンス構造 代表取締役
海藤 靖子(かいとう やすこ)
2015年より東京理科大学工学部建築学科、髙橋治教授の研究室にて秘書として勤める。
その後、教授が東京理科大学発ベンチャー企業として立ち上げた、「株式会社サイエンス構造設」の代表を務める。地震大国の日本において、世界に先駆けた建築構造を世に送り出し、自然の力に謙虚に挑み続ける技術者集団を目指す。命を守る建築設計で社会貢献を志す。
株式会社宇宙の学び舎seed 代表取締役CEO
浮田 亜寧(うきた あね)
2001年生まれ。現在東京理科大学理工学部経営工学科に在学しながら、会社経営を行っている。学生時代に受けたプログラムで「他の分野に広がる宇宙の学び」への魅力、「学生の中で学びを循環させる仕組み」の大切さを感じ、多くの学生にこの体験を味わってもらいたい、という思いから”学生が”宇宙教育を行う会社を設立。宇宙に関する講演やワークショップ、実習などをオンライン・オフラインともに展開している。
――はじめに、飯田橋の東京都認定インキュベーション施設「THE CROSSPOINT 富士見 (以下 クロスポイント)」の概要について、コミュニティマネージャーの齋藤さんからご説明いただきます。
齋藤さん:クロスポイントは、国内最大級の理工系総合大学「東京理科大学」のグループ会社、東京理科大学インベストメント・マネジメント株式会社が運営するインキュベーション施設です。2020年10月にオープンした当施設のテーマは「Bridge to Success」。理科大グループのネットワークを活かしながら、専門家の方々、海外パートナー、連携パートナーの皆様と、多様なスタートアップを支援しています。 複数の地下鉄・JR路線が交わる飯田橋にあり、周辺に大学が多いことから学生起業家も入居しています。シャワーブースもあり、皇居ランの後に集中して仕事をされるといった入居者さんもいらっしゃいます。
2021年8月には市ヶ谷に「THE CROSSPOINT 市ヶ谷」をオープン。飯田橋と同じく、自然光が差し込むゆったりした空間が特徴です。外とのつながりを感じさせる広々としたオフィスで働くことで、創造性の向上が期待できます。
――続いて、クロスポイントに入居し、事業を育ててこられた2社の概要をご紹介いただきます。
海藤さん:株式会社サイエンス構造の海藤です。東京理科大学発のベンチャー企業で、免震構造設計・制震構造設計・監理を得意とする免振・制震のプロ集団です。創業は2017年7月、事業拡大とともに従業員数も増え、約25名となっています。 当社の創業者は、東京理科大学工学部建築学科の高橋治教授。「鉄道車両に使われる『ばね付きオイルダンパー』を組み込み、地震の衝撃に耐えられる建物ができないか」。そんなアイデアから開発した技術を、研究室から発信し、社会の役に立てたいという想いで創業された会社です。2020年には、高い衝撃吸収力を持つ「免震スライダー」という商品も完成。地震大国日本から世界に向けて、免震・制震技術を発信していきます。
浮田さん:宇宙の学び舎seedの浮田です。“seed”には『宇宙(Space)と地球(Earth)を教育(Education)でつなぎ、その過程で生まれる多様な学びが、子どもたちの中で自ら考え育つ種(seed)となりますように』という願いをこめています。創業メンバーの3名は全員、東京理科大学の学生です。わたしたちは、子どもたちの未来を創る力になる「宇宙の学び」をより多く、より遠くの人へ届けたい。という想いから宇宙教育事業に取り組んでいます。子どもたち、学生に「ホンモノの体験や学び」を届けるのは、宇宙について学んだ学生自身。中学校や高校といった教育現場に出向き、講義と実習を行う宇宙体験教室を開いたり、高校生以上を対象としたオンラインイベントを実施したりしています。
パネルディスカッション
――ありがとうございました。続いて、パネルディスカッションに移ります。 まず、インキュベーション施設の活用で、お二人の会社がどのように事業スピードを加速させてこられたかを具体的に教えていただけますでしょうか。クロスポイントでは、どのような支援を受けましたか?
海藤さん:数々の支援の中で一番驚かされたのは、クロスポイントの空間を、当社が使いやすい形に組み直してくださったことでした。 クロスポイントのオープン前だったということもありますが、「急激にスタッフが増え、オフィスを拡大したいと思っている」と松本さんにお話ししたところ、8つの個室スペースの壁を取り払い、広い1室にしてくださったんです。ニーズを汲み取り、こんなにも柔軟に対応してくださるんだと感激したことを覚えています。
松本さん:数字上の社員数ではなく、普段、在席する人数を伺って最適なプランを決めたり、利用時間が少ないようなら費用をディスカウントしたりと、できるだけ柔軟な対応を心がけています。
そのためにも、入居者さんや見学者の方と顔を合わせて話すことは大事にしています。オープンスペースにどなたかが立っていたら、自然に声をかける。気軽な会話をしていくうちに「最近、こういうことを始めて……」「こんなことで困っている」などと、事業についても話してもらえることがあります。その情報をもとに、お悩みの解決につながりそうな人をおつなぎしたりもしていますね。
海藤さん:相談できる方がそばにいたことは、次のステップへ向かう力になりました。松本さんや齋藤さんのおかげで、一人で悩まずに済みましたね。
――「気軽に、フラットに相談できる相手がいない」というお悩みは、創業者からよく聞かれます。改めて会う約束をしたり、連絡をとったりせずに「その場で自然と話せる」というのはインキュベーション施設ならではの魅力だと思います。浮田さんはいかがですか?
浮田さん:わたしたちは、経営面を幅広くサポートいただいています。事業計画書や契約書の作成について教わり、内容も添削してもらっていました。登記前は週1回、登記が終わってからも、月1回ほど松本さんと齋藤さんに相談させていただき、会社の運営や事業拡大のプロセスについて考えています。 社会人経験のない学生にとっては、起業にまつわるすべてが未知の世界。定期的に相談できる場を設けていただけてありがたかったです。
メンバーは3名。全員が東京理科大学の学生でもある
――浮田さんはまさにデジタルネイティブ世代。情報収集は得意だと思われますが、ネット上の情報だけで起業は難しかったでしょうか。
浮田さん:そうですね……ネット検索で得られる情報は、本当かどうか確かめる作業が必要ですが、これまで支えてくださった松本さん、齋藤さんからの情報は信頼できると感じます。
齋藤さん:信頼関係が生まれるからこそ、入居者さんによりそった提案ができます。まずこちらが「親身にサポートしたい」という想いで入居者さんのお話を聴くことで、信頼していただけるようになりたいと思っています。ありがたいことに今は「スタッフを信頼している、スタッフと話すのが好き」という入居者さんに恵まれ、クレームもありません。
――では、海藤さんが入居されて意外だったことはありましたか?
海藤さん:入居前に抱いていたインキュベーション施設のイメージは「コスパがいいし、便利そう」くらいの感じでしたね。実際は、その場に松本さんや齋藤さん、入居者さんがいて、誰かしらとお話しするんですよね。そうすると、次に行ったときに、事業に関連する方をさりげなく紹介してくださったり、わたしたちが受けた取材の記事を飾ってくださっていたり……。クロスポイントは、サポーターがいる温かい場所なんだと感じられたことは意外なうれしさでした。 起業家はさまざまな人に出会っていく中で、良くも悪くも目の前の人に受け入れられているか、そうでないかを敏感に感じ取ってしまいます。ここなら、安心して自分の仕事に集中できると思えました。
松本さん:時折、入居者さんにアンケートをとって要望をヒアリングしていますが、サポート自体は他のインキュベーション施設とあまり変わらないかもしれません。ただ、学生を主体としたスタッフが「起業家をできる限り支えたい」という想いを共有して動いてくれることで、温かな空気が醸成されてきた気がします。
齋藤さん:一見、事業の成長を目指すインキュベーション施設らしくないかもしれませんが「ウェルビーイング(心身が良好で、社会的にも満たされた幸福な状態)」を実現できる環境作りを心掛けています。心身の健康は、事業の成長にとっても重要です。居心地のよいオフィスづくりを心がけ、メンタリングサービスの提供や、食事面から健康を支えるサラダランチを提供するなどさまざまな取り組みをしています。
――入居者代表として、お二人はどんな人にインキュベーション施設を勧めたいですか?
海藤さん:起業を志す人全員! と言いたいですね。誰もいない部屋に閉じこもって仕事をすると、何かと不安になったり、決意が揺らいだりします。広々としたインキュベーション施設でコーヒーを飲んだり、マネージャーさんや休憩中の入居者さんと雑談するだけでも気分転換ができる。私も随分、助けられました。 思わぬ知見や人との出会いを得られ、モチベーションが高まることも、インキュベーション施設のいいところ。入居者さんの経験値たっぷりの情報が行き交う、そんな環境に身を置くだけで学びになり、事業は加速するはずです。
浮田さん:学生で起業を志す人は「強い想い」以外の資源、たとえば、資金や人材、人とのつながりや活動場所が不足していることが多いんです。インキュベーション施設を活用したことで、その不足が補えた気がします。 オフィスを新たに構えることで生じる初期費用を抑えられましたし、貴重なアドバイスをくださる方、ビジネスを支えてくださる方に出会えました。仕事場やイベント会場として空間を活用させていただいていますし、松本さんや齋藤さんのように、相談できる存在がいてくれて心強いです。 サポート環境が整っていれば、自分のビジネスに対する熱を冷ますことなく事業に専念できます。アイデアをすぐにでも実現したい学生や、熱い思いを持つ若い起業家は特に、最初の一歩をインキュベーション施設で踏み出すことをお勧めします。
齋藤さん:うれしいですね。コロナ禍でオンライン主体となっていますが、企業経営に携わるシニア世代と学生など、世代や立場を超えた交流の場も設けています。ビジネスに少しでもプラスになるようなつながりづくりをサポートしていきたいですね。
松本さん:わたしたちは、何より入居者さんのビジネスの成長が楽しみ。浮田さんの後輩たちがクロスポイントに入ってきたとき、先輩としての経験を語ったりして後進のサポートを手伝ってもらえたらうれしいですね。クロスポイントが、起業家を応援するエコシステムになっていく。これがわたしたちの目標です。
――ビジネスをいとなむ場所は限りなくある。その中でクロスポイントが選ばれる理由は「スタッフへの信頼から生まれる安心感」にある気がしますね。起業家がチャレンジするには、人の助けが得られ、安心して仕事に集中できる環境がないと難しい。インキュベーション施設は、まさにチャレンジにふさわしい環境ではないかと思います。本日は、ありがとうございました。