インキュベーション施設を使う-起業ノカタチ
RYOZAN PARK編
創業者と、インキュベーション施設のマネージャー(以下IM)のお話を通じ、「インキュベーション施設を拠点にビジネスをすると、どんなことが起きるのか」を具体的に探るインタビュー。
今回は、株式会社Unsungs&Web(アンサングス アンド ウェブ) 代表取締役 有井 誠さんと、有井さんが入居される東京都認定インキュベーション施設『RYOZAN PARK』のインキュベーションマネージャー 中島 明さん、コミュニティマネージャーの浦長瀬 紳吾さんにお話を伺います。
RYOZAN PARKを利用する 先輩起業家 有井 誠さんのストーリー
RYOZAN PARKは、大塚と巣鴨を拠点とするコワーキングスペースでありながらたくさんの「顔」を持つ施設。オフィス、レジデンス、スクールを三つの柱とし、「より豊かな人生はシェアからはじまる」という哲学をもとに、人々の温もりとエネルギーが交差する共同体です。有井さんがRYOZAN PARKへ入居されたのは2017年2月。創業とほぼ同時期でした。
有井さんプロフィール
株式会社Unsungs&Web 代表取締役 有井 誠
1986年、山梨県生まれ。大学卒業後、外資系コンサルティング会社に5年間勤務。モノづくりの世界に興味を持ち、実兄がつくる「個人でも使えるレーザー加工機」の事業に参画。クラウドファウンディングで6,000万円超の成功を納め、海外約20か国へ販売。現在は独立し、日本から世界に向けた「Crafted in Japan」のブランドを創ることをミッションに活動中。
中島さんプロフィール
RYOZAN PARKインキュベーションマネージャー 中島 明
1976年生まれ。千葉市出身、豊島区在住。場づくりと関係構築、共創型プロジェクトのスペシャリスト。豊島区を中心にトーキョーのローカルで「暮らし、働く」動きを推進する。RYOZAN PARKではIMとして、メンバーの事業拡大や壁打ちに加え、地元企業や信用金庫などと連携し、まちと連携した起業支援にも力を注いでいる。
浦長瀬さんプロフィール
RYOZAN PARKコミュニティマネージャー 浦長瀬 紳吾
1991年生まれ。奈良県出身、豊島区在住。個人事業として手紙専門の配送業「想いが旅する飛脚便」で独立し、RYOZAN PARKを事務所として利用する中でコミュニティマネージャーを兼任。メンバーとの対話を大切に、交流の場づくり、ジョブマッチングに加え、仕事だけでなく暮らしも充実する場づくり、助け合える関係値づくりに力を入れている。
――最初に、有井さんが手がけられている事業の概要を教えてください。
有井さん:日本の技術や文化を活かしたものづくりで、新たなライフスタイルを提案するブランドをつくっています。現時点では、香りや植物由来の原料にこだわった洗剤やハンドソープを届けるホームケアブランド「Komons(コモンズ)」、完熟果物の新しい楽しみ方を提案するレア・ドライフルーツのブランド「FRUITEST(フルーテスト)」、完熟果物の無人販売事業「FSTAND」が自社ブランドとして形になっています。
自社ブランド以外にも、日本各地の企業や自治体、そして生産者と共創した「Crafted in Japan」なブランドを生み出し、世界に展開していくことをミッションとしています。
――有井さんが起業されたきっかけは、どんなところにありましたか?
有井さん:知名度が低くても、こだわりを持ってものづくりに打ち込む実兄のような人や会社を後押ししたいという思いがあって起業しました。
起業前、地元の山梨でものづくりをしていた兄から、「個人で使えるレーザー加工機を開発したけど、どうやって売っていけばよいかわからない。販売やマーケティングを手伝ってほしい。」と連絡が来て、手伝うことにしたんです。「こんなマニアックなもの買う人いるのか」とはじめは半信半疑だったんですが、クラウドファンディングやD2Cの仕組みを活用することで、世界中のものづくり愛好家から続々と注文が入ったんです。その経験から、日本で生まれた素晴らしいものを、海外に売り出す手伝いがしたい。そんな想いが湧いてきました。
ちょっと真面目な話になってしまいますが、社名に使った「unsung」は、称賛されてない、見出されてないという意味の単語で、「web」は、くっつける、組み合わせるといった意味を持つ言葉です。
魅力的な素材や技術が、日本のものづくり領域には眠っている。価値を見出されていなかった素材や技術を組み合わせ、世界に出ていける尖ったブランドをつくりたい。そんな想いが社名に込められています。
――そういった由来があったんですね。ちなみに、すでにある「日本のものづくり」を海外に展開するサポートではなく、自分でブランドづくり(ものづくり)を始めたのはなぜですか?
有井さん:自分でリスクを負って商品開発をして、在庫を抱えて自分で発送するという、ものづくりのプロセスに取り組まないと、長年、ものづくりに携わってきた方の信頼を得られないと感じたからです。信頼されなければ、どんなに「日本の技術を活かしたブランドをつくって、海外に出て売りましょう!」と声をかけても、話を聞いてもらえません。
この先、立ち上げたブランドを世界展開していく段階にも、ものづくりに取り組んだ経験は必ず役立つ。そう信じて初めて立ち上げたのが、ホームケアブランド「Komons」です。
――日本発のブランドが世界に出ていく上で、武器になると感じていることを教えてください。
有井さん:日本人や日本の会社の「こだわり」は武器だと思います。日本のものづくりは、割に合わないとわかりながら120%の仕上がりを目指す傾向があります。割に合わないということは、価格勝負になる数百億円~の市場では勝ち目がない。
でも、兄がつくったレーザーカッターを販売する中で「こだわり」を愛してくれる人は、少数であっても世界中にいると気付きました。それなら、「こだわり」を追求できる数億円規模のブランドをたくさんつくって、世界に送り出せばいい。それが、日本のものづくりが持つ良さを活かす方法ではないかと考えています。
――すでに幅広いジャンルでブランドをつくられていますが、一貫している想いや考えはありますか?
有井さん:今のところ、「こんなのあったらいいよね!」といポジティブな発想よりは、「これ、おかしくない?」という怒りから立ち上げたものばかりです(笑)。レア・ドライフルーツのブランドも「加工品に回される果物ってなんでこんなに質の低いものばかりなんだろう….」といった怒りから始まっていますし、「Komons」の食器用洗剤をつくったのは、子どもが生まれて家事をしていて、「もっと肌にやさしくて、もっと家事が楽しくなるものはないのか」と感じたことがきっかけです。
今使っている洗剤に対して、自分と同じような感情や疑問を持つ人も、世の中には0.1%くらいいるんじゃないかと想像したとき、そんな人に愛されるものをつくろうと思いましたね。
――では、起業と同時期にRYOZAN PARKへの入居を決められた理由についてお聞かせください。
有井さん:自宅からのアクセスがよかったことと、空間の雰囲気のよさは決め手になりました。起業したての頃は自分も会社も知名度がなく、「得体の知れない奴」と思われがちです。せめてオフィスだけでもまともでありたかった(笑)。打ち合わせで来られる方にも「素敵なオフィスですね」と好印象を持っていただけることが多くてありがたかったです。利用料も正直、安すぎます。
――RYOZAN PARKに入居して、このサポートはありがたかったと感じることはありますか?
有井さん:ひとつは、コミュニティマネージャーの浦ちゃん(浦長瀬さん)が、もともと、RYOZAN PARK のメンバーだった方を紹介してくれたこと。今や、会社に欠かせないコアメンバーです。
あと、本当に助かったのは、浦ちゃんや他の入居者さんとランチやイベント中にいろいろと話せたこと。一人で商品開発や事務作業をしていると、「本当にこれでいいのか」と悩みすぎて、迷走しそうになります。その孤独感は、RYOZAN PARKのおかげで大分やわらぎました。
浦長瀬さん:有井さんは運動会にも家族で参加してくれたし、一時期は、週1ペースでランチ行ってましたね(笑)。仕事の話はもちろん、家族や趣味の話もしあえるのが、RYOZAN PARKらしさかもしれません。
――浦長瀬さんは、RYOZAN PARKの会員として入居され、コミュニティマネージャーにスカウトされたと伺いました。マネージャーとして、普段から意識されていることはありますか?
浦長瀬さん:ちょくちょく声をかけて、どんなことでも話しやすい空気感をつくろうと意識してます。起業家として利用していたときも、何でも話せる関係性に助けられてきました。起業すると、みんなに自慢したいくらいの成果が出ることもあれば、停滞してどうにもならない時期もあります。ネガティブなことを家族に話して不安にさせたくないと、一人でモヤモヤを抱え込むこともあると思います。そんなとき、拠り所になれたらと思っています。
――「話しやすい関係性」をつくるために、工夫されていることはありますか?
中島さん:入居者さん同士が出会うポイントは、幅広くつくろうとしてますね。フラットに話しやすいので、交流形のイベントは多めに開いています。バーベキューに来なかった人がいたら、コーヒーのイベントなら来てくれるかな、お酒なら、スポーツなら……と手を変え品を変え(笑)。
有井さん:RYOZAN PARKのイベントが面白いのは、中島さんや浦ちゃんが誰よりも楽しんでいるというか、いつのまにか輪の中にいるところ。主催者と招待客のような関係でもなく、誰とでもフラットに話しやすい空気をつくってくれています。食事系のイベントのときは、入居者さんが食材を仕入れたり、皿洗いもしてるし(笑)。いろいろな場面で、お互いへのギブがあります。
中島さん:お互い、消費し合う関係性にはなりたくないんですよね。最近は、地域まで巻き込んでギブし合う関係が出来てきました。地元の金融機関「巣鴨信用金庫」のある職員さんが、1週間RYOZAN PARKのシェアハウスに住んで、コワーキングスペースで仕事をしたんです。たったそれだけで、RYOZAN PARKの入居者さんは気軽にお金の相談ができたし、信金さん側も、相談窓口に行ったことない起業家と知り合えた。お互いにとっていいつながりができたと思います。IMとして、個別にメンバーの相談に乗ることももちろんありますが、相談し合える関係性をつくることにとても力を入れています。
――月並みな質問で恐縮ですが、Unsungs&Webの今後についてぜひ教えてください。
有井さん:この2~3年はホームケアブランド「Komons」の国内販売を強化し、店舗作りも含めて海外への販売ルートをつくりたいと思っています。昨年末から、台湾での販売に向けた話が進んでいるので現地パートナーの力を借りながら頑張りたいです。
その先は、30年かけて日本発のブランドを30個立ち上げたいという目標に向けて、ブランドのプロデュースや、リアル店舗網・バイヤー網を整えて各ブランドの海外展開を支援したいと思っています。
――最後に、有井さんから起業家に伝えたいことはありますか?
有井さん:プライベートの過ごし方も含めて、自分の価値観や、事業の種類に合った起業スタイルを選んでほしいという思いがあります。立ち上げ当初からVCから資金調達をしてチームをつくって短期間で急成長させて……という、いかにもスタートアップ的な起業もあれば、借り入れもせず、10年単位で時間をかけて一人で始める起業もあります。合わない起業スタイルを選んでしまうと、自分にとっても会社にとってもあまりいいことがありません。
創業当初は、妻にも手伝ってもらい、家の一部を倉庫にしていたような僕自身の起業スタイルは、昔ながらの「家内工業」に近い感じです。デジタルツールを活用することで人数ながらしっかり世の中に価値を出せる事業にしつつも、職住近接で家族との時間も大事にする。このスタイルは、自分には合っている気がします。
中島さん:スタイル選びは大事ですね。RYOZAN PARK の入居者さんは近所に住んでいる方が多いんです。暮らしの場が近いからか、身近な課題解決を目指す「地に足ついた起業」が多い印象です。子育て世代も多いので、徹夜している人はほぼ見かけない(笑)。
――今日お話を伺って、仕事を含めた暮らしを大事にしている入居者さんが多い印象を受けました。
では、RYOZAN PARKの今後についても教えてください。
中島さん:起業に踏み出そうとする人を後押しするのは、「それいいじゃん!」と言ってくれる人の存在。ビジネス視点を持つマネージャー、起業家の先輩、自分に近しい仲間の言葉が力になるんですよね。RYOZAN PARKは「それいいじゃん!」と、言い合える場にしていきたい。そのためにも、入居者さんの人となりと、やりたいことや熱量を知り合える機会をよりもっと増やしたいと思います。
浦長瀬さん:RYOZAN PARKには、一言で言い表せない仕事をしている人もたくさんいます。時には話すだけでも刺激があります。多様な人と交流しながら事業を育てたい、新しいライフスタイルを見つけたい人にはおすすめできます。「起業しようかな」と思ったときは、一度遊びに来て雰囲気を感じていただけるとうれしいです。
株式会社Unsungs&Web
https://unsungs-web.com/
東京都豊島区南大塚3-36-7 南大塚T&Tビル 6F
RYOZAN PARK
https://www.ryozanpark.com/
東京都豊島区巣鴨1-9-1 グランド東邦ビル1-4F ほか
※本レポートは、対談実施当時の情報を、レポートとして掲載したものです。実際に施設のご利用をされる場合は、各施設にお問い合わせください。